1:出会い

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1:出会い

 創作物のデスゲームやマネーゲームでは、主催者やスポンサー側の人が、「人は追い詰められたとき、その人の本性が露わになる」と言うが、そんな追い詰められ方では生物の本能のままの行動になるだけで、どういった本性を持っているかは闇に放っていると感じる。  一方で、適度な追い詰められ方をしたとき、その人らしさが最も浮き彫りになると思う。  その最たるものが、 「今日はカレーとトンカツで、まあカツカレーにするか」  一人暮らしで、自炊か外食かスーパーやコンビニの総菜・弁当か。どれで済ます頻度が多いかについては、その人らしさがはっきりすると考えている。  と、スーパーの野菜売り場で立派な茄子を見ながら考えるのだった。  ちなみに、ソウタという大学生は、つまりは僕だが、自炊多めである。  外食は美味しいものの財布には厳しい。 「ぷりぷりで美しい光沢、肌触り良さそうな曲線美。唐辛子を加えた麻婆茄子も捨てがたいが、夏野菜カレーとトンカツだ。暑さに負けないように」  精算を終えて、エアコンの利いた涼しいスーパーからかッと暑い地獄に戻される。  夏休み。  インドア派の僕は言葉を忘れてしまうのではないかと思うほど人と話す機会がない。  周りの繋がりが弱いというのは面倒事が少ない一方で、つまらないものだ。  アルバイトは夏休みの前半に単発バイトを詰めて終えた。  有り余った時間で旅行をするのもいいかもしれない。  本当は一年以上顔を見せていない実家に帰るべきかもしれないが、どんな顔をして戻ればいいのか分からず、喧嘩など一度もしたことがない親子関係に亀裂が入るかもしれないという危機感はあった。  いつかは帰ろうとは思っているが、いつまでもタイミングを逃してしまうのである。 「帰ったら前に買った中古のゲームでもするか」  ゲームをする予定を立てても暇なものは暇だ。  と広がるビル群、店の看板、街路樹や建物の隙間の小道を眺めていたときだった。  女の子?  陰に姿を見た。  明確に目を合わせてしまって、その女の子が僕に近づく。  綺麗な子だ。  黒髪のロングヘアーで、円らな二重の瞳、やや焼けた褐色の肌、一瞬合羽と間違えた水色のコート。小柄な少女は宝石のように瞳に光を入れて、僕をじっと見る。  僕は気になって足を止めてしまった。  少女のコートは所々黒くなっていて、切れた糸がひらひらと風を受けていた。  って、近い!  少女は僕の手を掴んだ。  温かくて柔らかい、いい匂いがしそう、……臭いか? 「私、リオナって言います。助けてください!」  僕は驚いてすぐに反応はできなかった。  だが、つまらない夏休みに刺激がほしくて。  リオナという少女を助けることにした。
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