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2:迷子
夏休みの僕はあまりにも退屈だった。
自炊のためにスーパーへ行き、野菜カツカレーを作るための食材を購入する。
散策気分になりながら自宅を目指していると、汚れたコートを着たリオナという少女に出会う。
そこで助けてほしいと言われたのだ。
「助けるって何を求めている?」
「私は家に帰りたくて。一緒に探してください」
「良いけど住所から検索にかければすぐに見つかるんじゃ」
「私、記憶がないです。苗字も覚えてなくて。自分が一体何者かも。生きるためにひたすら歩いてきました。もう三日間ほど何も食べていません。水は公園で何とか飲みましたが」
「よく分からないけど、どうしたらいい?」
「……家を一緒に探してください」
といった様子で。
つい目が合ってしまったため話しているが。
困っているならどうにかしよう。
暇だし。
「どの辺りとか分かる?」
「記憶がないので」
「そうか。リオナさん、その、視線を集めている」
やや臭い。
汚れている。
それだけでも目立ってしまう。
「自宅すぐそこだし、そこで聞いてもいい?」
「もちろんです」
七階マンションの二階の角部屋。
外の人の声が聞こえてしまう悲しい物件であるが。
どうせ暇だしいいかとも思っている。
「私って臭いですよね」
「多少は?」
リオナさんは顔を真っ赤にして。
「シャワー貸してくださいッ!」
涙目で言うものだから断れず。
異性を入れてしまったこと、というかシャワーを貸してしまったこと、着替えが自分のものしかないことから、やっちゃった感がある。
仕方ない。
「これでましになりましたね」
女の子を久しぶりに見て、それも綺麗な人なので、緊張してしまうのだが。
身体を綺麗にするとよりかわいらしさを感じる。
それも僕の服を着ている、うん、あまり考えないでおこう。
「家を探してほしいってことだよね」
「はい。でも記憶がなくて。どう探せばいいか分からなくて。警察の方に名前から住所を調べてもらったのですが一切ヒットせず。顔を検索しても駄目だったので整形などを疑われて。怖くなって逃げたんです。私は自分を証明するものを何も持っていなかったので、逃げる選択をしました。保護という形ですがいざ捕まるとなると怖くて」
「つまり?」
「私のデータがどこにもないってことですね。なぜかは分かりませんが。よりいっそう家に帰りたいと思っています。母が待っている、それだけは間違いない気がします。記憶を全部失っていてはっきりしたことは分かりませんが」
「分かった。ならリオナさんが覚えていることを教えてほしい」
「分かりません、記憶がないので」
「ならここ三日間の出来事だけでも」
「それなら、」
僕は後悔しかけていた。
顔認証による個人情報へのアクセスというのは行政機関しか行えない。
元々病院や事件・事故のためのもので、それを使っても住所が分からなかったとうのは並大抵の問題ではない。
僕が関わっていい問題だろうか?
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