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3:君のこと
「三日間の移動経路は大体分かった。一日目は正確に分からないが、地名を確認しながら進むことはできたということか。記憶喪失、個人情報は抜けているな。友達の名前とか、おおよその年齢とか、どんな感じの場所にすんでいたかとか分からないか?」
「すみません、全く」
リオナさんは個人情報に関する記憶を失っているものの、非常識な人間ではなく礼儀正しい印象を受ける。それに、日本語も流暢で、他の国から来たわけではなさそうだ。
一方、警察の顔認証でも個人情報が分からなかった。
どこから来たか分からないというのは、不気味なものだ。
だが記憶がないという表情は嘘のようにも思えない。
リオナさんに何が起こっているのか?
「私は家に帰ることができるのでしょうか?」
「僕が協力する」
「ありがとうございます」
「ご飯食べる? そうめんだけど」
「食べます」
麺を茹でて、擦った生姜とねぎを準備する。
ストレートで使うことができる麺つゆを準備して。
「どうぞ」
「いただきます!」
そうめんを食べた。
食べ慣れている、違和感はない。
自分に関する記憶を失って、行政には顔をはじめとしたデータが見つからない。
まるで。
「ごちそうさまでした!」
リオナさんはこの世界から消去されてしまったようだ。
なんてセカイ系ファンタジーのような展開があり得るのか?
「皿洗いしますよ」
「大丈夫。リオナさんは休んで」
分からない。
やはりもう少し思い出すまで待つしかない。
待つってどれくらいだ?
……待つ?
「リオナさんはお金持ってますか?」
「現金はもちろんスマホやその他端末もないので全く。すみません、礼はします。お金は持っていませんが」
「そうではなくて。家が見つからなかったら」
「外の公園で眠ります。決して迷惑を、」
「食事は?」
「それはどうしましょう。分かりません」
「うちに来なよ。家を見つけるまで」
「いいんですか?」
「暇だから」
とかわいい女の子に格好つけたのはいいものの。
まずは情報探しということで、外へ出ることにした。
歩いていれば何かを思い出すかもしれない。
「そういえば名前を聞いていませんでした」
「敬語はいいや。僕は蒼汰」
「ソウタさんですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
敬語の方が話しやすいならいいか。
リオナさんが丁寧な一礼をするものだから、僕は恐る恐る礼を返す。
育ちが良い子だと思う。
家に帰したいという気持ちが強くなった。
電車に乗る。
改札を抜けて歩いてショッピングモールへ。
刺激が多い方がきっと思い出しやすいと思ったのだが。
「ソウタさん、ソウタさん! 私、すごく注目されています」
ぶかぶかの服を着ているからだ。
……ごめん、リオナさん。
ということで服を購入して着替えてもらった。
財布が大ダメージを受けたが仕方ない。
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