3:君のこと

1/1
前へ
/6ページ
次へ

3:君のこと

「三日間の移動経路は大体分かった。一日目は正確に分からないが、地名を確認しながら進むことはできたということか。記憶喪失、個人情報は抜けているな。友達の名前とか、おおよその年齢とか、どんな感じの場所にすんでいたかとか分からないか?」 「すみません、全く」  リオナさんは個人情報に関する記憶を失っているものの、非常識な人間ではなく礼儀正しい印象を受ける。それに、日本語も流暢で、他の国から来たわけではなさそうだ。  一方、警察の顔認証でも個人情報が分からなかった。  どこから来たか分からないというのは、不気味なものだ。  だが記憶がないという表情は嘘のようにも思えない。  リオナさんに何が起こっているのか? 「私は家に帰ることができるのでしょうか?」 「僕が協力する」 「ありがとうございます」 「ご飯食べる? そうめんだけど」 「食べます」  麺を茹でて、擦った生姜とねぎを準備する。  ストレートで使うことができる麺つゆを準備して。 「どうぞ」 「いただきます!」  そうめんを食べた。  食べ慣れている、違和感はない。  自分に関する記憶を失って、行政には顔をはじめとしたデータが見つからない。  まるで。 「ごちそうさまでした!」  リオナさんはこの世界から消去されてしまったようだ。  なんてセカイ系ファンタジーのような展開があり得るのか? 「皿洗いしますよ」 「大丈夫。リオナさんは休んで」  分からない。  やはりもう少し思い出すまで待つしかない。  待つってどれくらいだ?  ……待つ? 「リオナさんはお金持ってますか?」 「現金はもちろんスマホやその他端末もないので全く。すみません、礼はします。お金は持っていませんが」 「そうではなくて。家が見つからなかったら」 「外の公園で眠ります。決して迷惑を、」 「食事は?」 「それはどうしましょう。分かりません」 「うちに来なよ。家を見つけるまで」 「いいんですか?」 「暇だから」  とかわいい女の子に格好つけたのはいいものの。  まずは情報探しということで、外へ出ることにした。  歩いていれば何かを思い出すかもしれない。   「そういえば名前を聞いていませんでした」 「敬語はいいや。僕は蒼汰」 「ソウタさんですね。よろしくお願いします」 「こちらこそ」  敬語の方が話しやすいならいいか。  リオナさんが丁寧な一礼をするものだから、僕は恐る恐る礼を返す。  育ちが良い子だと思う。  家に帰したいという気持ちが強くなった。  電車に乗る。  改札を抜けて歩いてショッピングモールへ。  刺激が多い方がきっと思い出しやすいと思ったのだが。 「ソウタさん、ソウタさん! 私、すごく注目されています」  ぶかぶかの服を着ているからだ。  ……ごめん、リオナさん。  ということで服を購入して着替えてもらった。  財布が大ダメージを受けたが仕方ない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加