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4:君のこと(2)
リオナさんと僕は様々な店を回って、リオナさんの記憶が戻ることを願った。
しかし、リオナさんが思い出すことはなかった。
一日目のスタート地点からまともに食べずに自宅の地域までやって来た。
正確には一日目の途中から覚えているというわけだが、覚えていない部分についてはそもそも忘れてしまったということではなく分からないとのことだった。
リオナさんが何かしらの事件に巻き込まれて記憶を失い、道の途中で放置されたのだ。
僕はどうしてもリオナさんを家に帰したいと思うようになった。
一方でリオナさんは何者なのか?
行政が顔を認証しても個人情報が得られなかったというのが理解できない。
恐ろしい組織が背後にいるような気もする。
ゲームセンターでペンギンのぬいぐるみを見つけた。
「これかわいいです」
「取ってあげるよ」
百円で一回、五百円で六回遊べる大型のクレーンゲームだ。
五百円分挑戦して、追加の二百円でようやく手に入れた。
リオナさんはぬいぐるみを抱き締めて微笑む。
百円ショップ、雑貨屋、本屋、服屋などなどいろいろ見た。
住所を特定するための記憶が戻ったりはしなかったが。
好きな音楽や興味のある本など様々なことを知ることができた。
リオナさんは間違いなく日本で生きて、様々なものに触れてきた人だ。
どこかの組織にいて、かろうじて逃げてきたなどであればここまで好きなものが見つかるはずもない。
この笑顔を守るためにも、リオナさんを助けたい。
「ありがとうございます。ソウタさんに出会って良かったです。あのままでは心が折れてしまっていましたから」
「うん、どういたしまして。リオナさん、必ず家を見つる。それに、」
もし見つからなくてもいつまでも力になるよ、は格好付けすぎだろうか?
家族と合流して元の生活に戻れたらもう会わないだろう。
もしかしたら、そんな低い可能性でもなくて、リオナさんには恋人がいるかもしれない。
「それに、諦めなければ必ず。必ず家に帰れるから」
自宅に戻る。
今日の夕食は野菜カレーとトンカツだ。
「ソウタさん、私。実はトンカツが苦手です」
「ごめん。変わっているね」
「はい。変わっていますよね」
……やっぱり。
リオナさんは一般的には何が好きで、何を苦手とするかも認識しているようだった。
そのうえでトンカツが苦手と言っている。
自分が変わっていると認識している。
一般的じゃない、それって。
きっとリオナさんらしさの一つだ。
「まだ消費期限まであるし、また今度にしよう。実は昨日の牛肉が余っているから」
「私も手伝いましょうか?」
危ないから、と断ろうと思った。
元々料理をしていただろうか?
「慣れている? 料理」
「貸してください」
「手際良いな」
「そういうソウタさんは猫の手ができてなくて怖いです」
「一人暮らしだと雑になってさ。料理も得意ではないから、家電の自動調理器とか買えたらいいけど、流石に高すぎるから」
「まだバリエーションは少なかったのですが、私の家に、」
ありましたよ、とリオナさん。
これも大事な情報かもしれないとリオナさんを見ると。
涙を流していた。
「私ってば、本当に個人情報だけ抜け落ちているみたい」
リオナさんは僕を見ると慌てて、
「大丈夫そういうのではないから。ほら、たまねぎ!」
四分の一サイズに切ったたまねぎを見せてくる。
事故の線も考えた、でもこれは間違いなく人為的なものだ。
一番大事なのは家に帰すこと。
それでも犯人と一度でももし家が見つからなかったらと考えた自分に怒りを覚える。
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