プロローグ

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ある、厚い雲がかかっている、底冷えする日のことだった。 深夜11時頃だっただろうか。 大人で賑わう街に、1人の少女が走っていた。 少女は、黒い長い髪で、なぜか生地が薄い白いワンピースしか着ていなかった。 その少女は、人混みをかき分けるように無我夢中で走っていた。 自分がなぜ走っているのか、自分はなぜ泣いているのか、自分は誰なのかさえわからなくなっていた。 ひとしきり走ったのか、少女は肩で息をしていた。 そして、下に向けていた顔を前に向かせて、また走り出そうとした瞬間、誰かの足に引っかかったのか、その場で転んだ。 周りの大人は、そんなことは気にせずに自分のことばかり考え、少女に見向きもしなかった。 その中には、少女に嫌悪の目を向けてくる人もいた。 少女は唇を噛んだ。 涙は流れなかった。 少女の口から発せられる、声にならない嗚咽が、泡となって人混みに消えていく。 人混みをかき分けるように、誰かに届くように発した声でさえ、誰にも届かなかった。 少女は倒れた。 視界が滲んでくるのを感じた。 あぁ、私はこれで終わるんだ。 少女はそう思ったのだろう。 空に手を伸ばし、その手を地面に落とした。 その後、少女は言った。 「復讐してやる」と。 偶然にも、満月が光輝いていた。
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