桃色

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桃色

「あ……」 「あ!」  普段行くスーパーが臨時休業だったので、少し遠くのスーパーへやって来ていた。 「久しぶりだね」 「本当」 「元気?」 「うん」  目の前に20歳の頃付き合っていた和哉(かずや)がいた。あまりの偶然に息が止まる。 「携帯変えたんだね。何回か電話したけど繋がらなかった」 「え、何か用だったの?」 「話がしたかったんだ」  頭が真っ白になった。心臓を強く握られた感覚がした。私を求めてくれる人がいた。それもただ話をするためだけに。 「何かあったの?」 「妻が死んだんだ」 「え……智美(ともみ)さんが?」 「うん」  私と和哉は2人でひとつだと思っていた。他の人なんて目に入らなかった。でもそれは私だけだった。和哉は私の働く喫茶店に女性と2人でやってきた。それが智美さんだった。ボックス席なのに2人で並んで座り、こそこそと顔を寄せ囁やき合っていた。どう見ても仲良しカップルだ。震える手でコーヒーを席まで運ぶと、智美さんは私を見て不敵に笑った。2人の手はしっかりと繋がれていた。  きっと私の存在を知っていたのだ。それでわざと和哉に連れてこさせ、自分が勝者であるとアピールしにきたのだ。  その後私はトイレにこもり泣いた。マスターが何回もドアを叩いたが出る事ができなかった。結局私は閉店時間までトイレにいた。マスターに事情を話し、きっと明日から来るなといわれるだろうと覚悟した。でもマスターは「酷い男だね。そんな男こっちからふってやりなさい」といってくれた。  私の恋は花火のように一瞬で燃え上がり、一瞬で砕け散った。
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