7人が本棚に入れています
本棚に追加
桃色
「あ……」
「あ!」
普段行くスーパーが臨時休業だったので、少し遠くのスーパーへやって来ていた。
「久しぶりだね」
「本当」
「元気?」
「うん」
目の前に20歳の頃付き合っていた和哉がいた。あまりの偶然に息が止まる。
「携帯変えたんだね。何回か電話したけど繋がらなかった」
「え、何か用だったの?」
「話がしたかったんだ」
頭が真っ白になった。心臓を強く握られた感覚がした。私を求めてくれる人がいた。それもただ話をするためだけに。
「何かあったの?」
「妻が死んだんだ」
「え……智美さんが?」
「うん」
私と和哉は2人でひとつだと思っていた。他の人なんて目に入らなかった。でもそれは私だけだった。和哉は私の働く喫茶店に女性と2人でやってきた。それが智美さんだった。ボックス席なのに2人で並んで座り、こそこそと顔を寄せ囁やき合っていた。どう見ても仲良しカップルだ。震える手でコーヒーを席まで運ぶと、智美さんは私を見て不敵に笑った。2人の手はしっかりと繋がれていた。
きっと私の存在を知っていたのだ。それでわざと和哉に連れてこさせ、自分が勝者であるとアピールしにきたのだ。
その後私はトイレにこもり泣いた。マスターが何回もドアを叩いたが出る事ができなかった。結局私は閉店時間までトイレにいた。マスターに事情を話し、きっと明日から来るなといわれるだろうと覚悟した。でもマスターは「酷い男だね。そんな男こっちからふってやりなさい」といってくれた。
私の恋は花火のように一瞬で燃え上がり、一瞬で砕け散った。
最初のコメントを投稿しよう!