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無色
「お母さん、私の下着洗っちゃったの!?」
「だって洗濯カゴに入ってたから」
「まさかお母さんのと一緒に洗ったんじゃないでしょうね?」
「洗ったわよ」
「キモ! 捨てる! あーあ、お気に入りだったのに。同じの買うからお金ちょうだい」
渋々財布から千円札を出す。でも娘はまだ不満気な顔をしている。仕方ないので五千円札を渡した。娘はありがとうもいわずに行ってしまった。
娘の香奈は高校に入ってから自分の物は自分で洗濯するようになった。部屋へも入るなとキツく言われているので掃除の必要もなくなった。お弁当も恥ずかしいからいらないといわれ作らなくなった。飲食店でバイトを始めた。まかないを食べて来るので家で夕飯を食べる事が少なくなった。
手がかからなくなったのは嬉しいが、何処か寂しい。
「明日休みでしょ? 香奈も朝からバイトでいないし、たまにはお昼でも食べに行かない?」
「明日は釣りに行くんだ。夕飯も食べてくるから」
「そう……」
夫に趣味があるのは喜ばしい。でも、やはり何処か寂しい。
御厨真紀子。夫の名字になって18年。今年40になる。夫婦というより家族になった。子育ても一段落つき、穏やかな日々を過ごしている。それに不満なんてない。でも心にぽっかり穴が空いたようで、自分が生きている意味が見えなくなった。私なんかいなくても世の中は回る。私は誰からも必要とされていない。いてもいなくてもいい人間なのではないか。そのうち誰からも見向きもされなくなるかもしれない。さながら、透明人間のように。
このまま年を取って老いて行くのだろうか。いや、そんなのは嫌だ。私はまだ40。あと1回くらいは花を咲かせたい。輝きたい。
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