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 家に帰り、食べてもらえるか分からない夕飯を作った。和哉は食事をどうしているんだろう。子供はいるのだろうか。両親と一緒なのだろうか。  そんな事を考えていると夜も更けてきた。私は1人夕食を食べお風呂に入った。香奈はバイトでまかない食を食べているのだろう。夫は……夫からは何の連絡もない。友人の多い夫だ。誰かと食べに行っているのかもしれない。 「連絡くらい……してくれたっていいじゃないの」  夫はちゃんと働いて家を建ててくれた。その上専業主婦もさせて貰っている。娘もそこそこ良い高校へ入ってくれた。勉強や健康面で心配した事はない。私は恵まれている。なのに満足できない。私はわがままだ。かまって欲しいだけなのだ。  ふと、娘のシャンプーが目に入った。絶対使うなといわれている。娘の髪はサラサラで良い香りがする。私の髪は安物のシャンプーを使っているからバサバサだ。私だって20歳の頃は艶があった。いつもいい香りをさせていた。あの頃私は輝いていたーー。 「お母さん! 私のシャンプー使ったでしょ! 使うなっていったのに!」 「間違えちゃったのよ。ごめんなさい」 「お母さんはもうオバサンなんだからそれなりのシャンプーでいいでしょ!」  そんなに怒らなくてもいいじゃないの。私だって女なんだから、たまにはいい香りの物を使いたいのよ。 「それよりそろそろオバサン向けの加齢臭を抑えるシャンプーにした方がいいんじゃないか?」 「え、私臭い?」 「枕変な匂いしてるぞ」 「やだぁ、お父さんでさえ臭くないのに」 「気をつけてるからな」 「うん、お父さんはいい匂いだよ。よそのお父さんとは大違い」  香奈が夫の頭に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。夫は嬉しそうに頭を娘の方に傾げる。この年頃の娘と父親の仲が良い事は喜ばしい事だ。幸せ家族だ。  その家族に、私は入っていない。
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