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1時間後私はホテルにいた。私と和哉はお互いの寂しさを、会わなかった時間を埋め合った。透明人間だった私の肌が朱に染まり、冷めきっていた体に熱が戻った。
「来てくれてありがとう」
腕枕をされている私の髪を和哉は優しく撫でた。
その時私は激しく後悔していた。
「帰らなきゃ。夕飯作らなきゃ」
おもむろにベッドから出ると私はバスルームへ向かった。洗わなきゃ。体も髪も顔も、全て洗い流さなきゃ。でも備え付けのシャンプーやボディーソープは香りが家のと違いすぎて使えない。仕方なく私はお湯だけで全身を洗った。家に帰ってからもう一度シャワーを浴びなきゃ……。
「もう旦那が恋しくなったの?」
和哉もシャワールームへやって来た。
「そんなんじゃ……」
和哉が後ろから抱きついてきた。せっかく洗ったのに、また和哉の匂いが付いてしまう。
「どうせ帰っても誰もいないんだろ? ここで夕飯食べていこうよ」
「今日は早く帰るかもしれないから、だから帰らないと」
和哉を振り切るように私はシャワールームを出て支度をした。私は何という事をしてしまったのだろう。夫や娘の顔がチラつく。絶対にバレるわけにはいかない。早く帰らなきゃ。
「今度いつ会える?」
体を拭きながら和哉がいった。
「……分からない」
「また、電話して。待ってる」
「うん、じゃあ」
和哉の顔も見ずに私は部屋を出た。何という事をしてしまったのだろう。忘れよう、今日の事は忘れなきゃ。私はただ慰めただけ。可哀想な和哉を慰めただけなのだ。
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