大人

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鏡を見ると見慣れた皺が複数個。 自分が大人に成った事を酷く痛感する。 就職先が決まったのが3年程前。 私は毎日仕事に行って帰って、飯を食い日によればビールを飲み、軽く酔い寝る。 こんな日々を毎日過ごしていた。 子供の頃は休日といったらほぼ毎日遊びに行っていたな。 今では寝ることが1番の幸せとなっている。 外へ行ったって、誰かと会ったって、そんなに頻繁に行うことはなくなった。 人との交流は会社でのコミュニケーションや、会社での飲み会、会社で出会った人とのちょっとした世間話。 私の生活全てが会社中心で動いている。 働く為に栄養を取り、働く為に睡眠を()る。 子供の頃の私には勿論夢があった。 希望に満ち溢れていた。 私は小説家になりたかった。 4年前までは、本気でなれると思っていた。 結婚して、子供を作り、少し田舎の広々とした家で、子供と3人、私は小説を書き、妻は専業主婦となり、幸せに暮らす。 そんな妄想を私は何度もした。 ここまで充実には行かなくとも、1部は実現するものだと思っていた。 現実は、そんなに甘くなかった。 21歳の頃、流石に就職活動をしなければと思い、行っていた小説の活動を一旦やめた。 仕事を続けながら、小説を書くのも悪くないと思った。 しかし、そんな暇なんてなかった。 就職活動中は本当に毎日が忙しく、自分でも行けそうな場所を必死に探し、身を(つくろ)い、面接を受ける。 面接も大抵受からず、1度自暴自棄になってしまった。 死のうかとも思った。 だが、私は諦めなかった。 何度も何度も面接を受け、就職先を探した。 1年間。 就職活動を初めて1年が経った頃に、私の就職先が決まった。 しかし、その就職先は都会である東京だった。 私は、「別に田舎じゃなくても幸せに暮らせるだろう」と過信していた。 実際、都会は楽しくない訳ではなかった。 外に出ればなんでもある。 確かに便利だが、ほのぼのと暮らしたいと考えていた私は、数ヶ月で現在の生活環境が苦しいと感じた。 無音で居られる場所なんて無かった。 安価な値段で借りている賃貸(ちんたい)住宅は壁がものすごく薄く、隣の部屋の物音が丸聞こえだ。 物を焼く音、いびき、物を投げる音、ゲーム音、テレビの音、全ての生活騒音が丸聞こえだ。 今でもものすごすごくストレスだ。 仕事も、初日はワクワクしたが、上司との関係、先輩との関係、失敗をすれば直ぐに怒鳴られ、終わるはずのないタスクを短期間で出され、毎日残業し、全てがストレスだった。 勿論小説を書く時間なんてなかった。 休日でさえ、仕事の疲れを取るべく、何もしたくなかった。 しかも、社会人になると急激に出会いが減る。 会社の同僚で女の人なんか数えれる程しか居らず、男ばかりだ。 まずまず、艦隊に人を好きにならなくなった。 学生だった頃は、あんな直ぐに色気づいて、頭がおかしかったのではないだろうか、と今では思う。 男の友はできた。 今では大親友と呼べる仲にまで発展したやつも一人いる。 最近は、そいつとしか飲んでいないが。 そーいえば、大人になって遊ぶということがとても減った気がする。 誰かと会うとなったら大概飲み。 酒を飲み、酔わなければ何をしても楽しくない。 はぁ、変わっちまったな。 鏡の前の皺だらけの自分を見、改めて思う。 子供の頃は自由だった。 大人が自由だと錯覚していた子供の頃が酷く懐かしい。 今日は休日なので、朝から酒を飲み、適当に寝散らかそうと思う。 私は一応、必死に足掻き、もがき、生きている。
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