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 カローラに乗り込み、羽山を下ろした路地へと引き返すと助手席に乗り込むなり彼が言った。 「ついでに調べたさっきの男、何者だと思う」  得意げな顔で言うから、有名な人物だろう。  少しの間思案顔になったが、 「分からないけど、ちょっと引っかかってね」  と言って肩をすくめた。  いずれにしろ、今日のクライアントが姿を現すまで数時間は動けない。  自分のスマホを取り出して、写真を画像検索にかける。 「ああ、調月製薬の ───」 「そうさ、調月 司郎(つかつき しろう)だったのさ」  思いがけず大物に行きついたのだ、と羽山は得意げに鼻を鳴らした。  その態度の真意を計りかねて、甘利が続けた。 「直観的に、何かありそうだと思ったのだけど、イマイチ焦点がぼやけて見えてこないのよね」  直観は、物事と無関係に閃いたりはしない。  一見関係性が薄い物事が結びついて起こると認識している。  だから、何かを示唆しているのは間違いないはずである。  新薬開発に力を入れている調月製薬は、治療が困難だった病気に希望の光をもたらしてきた反面、批判も多い。  炎上騒ぎの多さでも有名な製薬会社である。
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