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 東京都の祠山(ほこらやま)警察署の朝は、オンラインミーティングによる所長の挨拶(あいさつ)で始まる。  東京都の祠山署の刑事部捜査三課の島で椅子の背もたれを倒してひっくり返っていた、大塚 数馬(おおつか かずま)は顔を(しか)めた。 「祠山署管内では、最近宗教団体の脅迫文書に関する相談が増えている。  引き続き、パトロールを強化し、犯罪を未然に防いでもらいたい。  幸いにも凶悪犯罪の件数は昨年の数字を下回っている。  だが油断はするな。  犯罪を憎む気持ちを忘れずに、プロの目線で住民の皆様の安全を確保して ───」  自分の言葉に酔いしれ、勢いづいて大きくなる声に軽く舌打ちをする。  身を起こしてため息をつくと、ミーティングチャットを開いた。 「なんだ、昨日も相談があったのか」  独りごとを(つぶや)いたのだが、隣りのデスクにいた月輪 十完利(つきのわ とかり)がキャッチした。 「ネクロマンシ―・リプライズから脅迫文が来ちゃあ、震え上がっちゃいますね」 「黒魔術で呪い殺すぞってか。  おお、怖いねえ ───」  肩をすくめて、大塚は大袈裟(おおげさ)にのけ反って見せた。 「正統派の魔術信仰を追及する宗教団体ですからね。  マジで悪魔を召喚するかも知れませんよ」 「よせやい、俺はオカルト趣味じゃないっての」  ターゲットを決めると、ネット上で公開してから脅迫文書を送りつけて怖がらせる。  神の裁きが下るとか、悪魔の鉄槌が下ろされるとか、物騒な言葉は脅迫罪が適用されそうだが、全部挙げていたらきりがない。  パトロールを強化してポスティングを未然に防ぐとか、ネット上でもロボットによるパトロールをするとか、そんな対応が常である。 「しかし、最近よく聞くよな。  そのネクロ何とかって」 「ネクロマンシ―・リプライズですよ、先輩。  あまり関心ないんでしょう」 「まあな、呪いで殺人罪にはならないしな。  軽犯罪の部類だろう」 「軽犯罪と言えば、また挙げられたそうですよ」  すぐに察した大塚は、また顔を顰めた。 「これこそ税金の無駄使いだぜ」
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