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 取り調べ室は、ガランとしていてスチール机に向かい合わせの椅子が一組あるだけである。  狭い部屋の奥に、甘利という女の探偵がきちんと(えり)を正して座っていた。 「スピード違反と駐車違反と、住居不法侵入、器物損壊、ゴミ(あさ)り。  今回はどれかな」  探偵は警察を通して営業許可を得ている。  警察沙汰ほどではない案件を引き受けている部分もあるから、お互いに もちつもたれつ の関係が成り立っているのだ。  そして探偵は常に軽犯罪を犯している。  犯罪を警察が見過ごすことはできないから逮捕はするが、収監まではしない。  暗黙の了解なのだが、一応警察は立場上一応話をして帰すのだ。 「すみません、駐車違反です」  盛大にため息をついて眉根を寄せた大塚の顔が引き()った。 「交通部の仕事じゃないか。  何で刑事を呼ぶんだよ」 「実は、気になる情報がありまして」  声のトーンを落とし顔を近づけて言った。  ほう、と大塚も身を乗り出した。 「調月(つかつき)製薬の調月 司郎をホテルで見かけました」  背もたれに身を預け、天井を見上げて(うな)り、考え込む。 「宗教団体から、度々脅迫文書を送り付けられている、と聞いています」 「それと、どう結びつくんだ」  不倫疑惑と脅迫文は、交わらない2本の線のように感じられる。 「一緒にいた女性が、とても若くてインテリ風、つまり客員教授を勤める東京帝都大学の学生だったらどうですか」 「探偵の勘ってやつか。  俺も刑事の勘は重要だと思うが、現時点では裏付けが取れそうもないな」  警察は、明確な証拠がなければ捜査をしない。  何となくひっかかる、だけでは動くはずないことは、甘利も承知だった。 「新薬開発に関して、世間の人たちから(うら)みを買っているらしいですね。  魔術信仰で有名な、ネクロマンシ―・リプライズも名指しで上げているとか」 「まあ、宗教団体ってやつは社会的な成功者をやり玉に挙げて、無暗に非難するところはある。  だけどな、それは言論の自由と天秤(てんびん)にかけなくちゃならない」  世の中の原則を持ちだして、正論で跳ね返しにきた。  どうやら、大塚はこれ以上話に乗る気はないようだった。
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