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 玄関に立つと、周囲の喧騒が消え、異世界へやってきたような気分になった。  大理石調の彫刻の像が見下ろし、心の中を見透かされているような恐怖を吉川は感じた。 「なんか、人に見られてるみたいで怖くなるな」  翠埜も同じ方向へ顔を上げると、厳かな目をした彫像が、胸を刺すような視線を投げかけている。  一瞬ブルッと震えが足元を襲い、たまらず視線をドアに戻す。 「私、エジプトの神殿に言ったことがあるのだけど、丁度こんな感じで威圧されたわ」  中沢は肩をすくめた。  下からの照明を受けて、不気味に浮かび上がる効果も相まって、侵入者を値踏みするかのように(たたず)む彫刻達の下をくぐり抜け、ドアを開ける小洒落(こじゃれ)たメイド服の若い女が待っていた。 「いらっしゃいませ」  (うやうや)しくお辞儀をして、手で奥へと促した水無瀬 葉菜(みなせ はな)に中沢が声をかけた。 「素敵なファッションですね。  これって、メイド服なんですか」  少し口角を上げ、ニコリとして見せた水無瀬が、 「いかにもっていうメイド服は、私の歳だとちょっと恥ずかしくて。  カスタマイズさせていただきました」  と答えると、のけ反った。 「ご自分で作ったのですか。  すごい、私、手先が不器用で洋裁はちょっと」  スタイリッシュに細くタイトに作られた地にレースをあしらったところが、絶妙なバランスで柔らかい印象と機能美を兼ね備えていた。  洗練された女性、といった雰囲気を(かも)し出しているが、少々雰囲気に陰が感じられる。  中沢は、また少し身震いした。 「さあ、立ち話もなんですから、どうぞリビングへ。  奥様がお待ちです」  中央に縦に長く食卓が設えてあった。  その中央に50歳前後の女性が座って、水無瀬にシャンパンを勧めるよう促した。 「ごめんなさい、主人はちょっと体調が悪いって言いだしてね。  でも料理はちゃんと用意したから、召し上がってちょうだい」  妻の優佳は、言い終わると待ちきれないとばかりにシャンパンに口をつけ、ナイフとロークを取った。 「レストランじゃないから、あまり堅くならないで良いのよ。  お(はし)の方がいいかしら」  と破顔して笑った。
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