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13
玄関に立つと、周囲の喧騒が消え、異世界へやってきたような気分になった。
大理石調の彫刻の像が見下ろし、心の中を見透かされているような恐怖を吉川は感じた。
「なんか、人に見られてるみたいで怖くなるな」
翠埜も同じ方向へ顔を上げると、厳かな目をした彫像が、胸を刺すような視線を投げかけている。
一瞬ブルッと震えが足元を襲い、たまらず視線をドアに戻す。
「私、エジプトの神殿に言ったことがあるのだけど、丁度こんな感じで威圧されたわ」
中沢は肩をすくめた。
下からの照明を受けて、不気味に浮かび上がる効果も相まって、侵入者を値踏みするかのように佇む彫刻達の下をくぐり抜け、ドアを開ける小洒落たメイド服の若い女が待っていた。
「いらっしゃいませ」
恭しくお辞儀をして、手で奥へと促した水無瀬 葉菜に中沢が声をかけた。
「素敵なファッションですね。
これって、メイド服なんですか」
少し口角を上げ、ニコリとして見せた水無瀬が、
「いかにもっていうメイド服は、私の歳だとちょっと恥ずかしくて。
カスタマイズさせていただきました」
と答えると、のけ反った。
「ご自分で作ったのですか。
すごい、私、手先が不器用で洋裁はちょっと」
スタイリッシュに細くタイトに作られた地にレースをあしらったところが、絶妙なバランスで柔らかい印象と機能美を兼ね備えていた。
洗練された女性、といった雰囲気を醸し出しているが、少々雰囲気に陰が感じられる。
中沢は、また少し身震いした。
「さあ、立ち話もなんですから、どうぞリビングへ。
奥様がお待ちです」
中央に縦に長く食卓が設えてあった。
その中央に50歳前後の女性が座って、水無瀬にシャンパンを勧めるよう促した。
「ごめんなさい、主人はちょっと体調が悪いって言いだしてね。
でも料理はちゃんと用意したから、召し上がってちょうだい」
妻の優佳は、言い終わると待ちきれないとばかりにシャンパンに口をつけ、ナイフとロークを取った。
「レストランじゃないから、あまり堅くならないで良いのよ。
お箸の方がいいかしら」
と破顔して笑った。
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