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 ふと視線を上げた吉川は、部屋の奥にかかっている一枚の肖像写真に気づいた。 「あの写真は ───」  ゆっくりと顔を上げ、視線を向けた優佳が、ポツリと言った。 「一人娘の、愛実(まなみ)よ。  5年前に亡くなって。  生きていれば、あなたたちと同い歳だったはずなの。  うちの人が、ありすちゃんを可愛がるのは、娘の面影を探しているからかも知れないわ」  ため息をつくと、食事の手を止めた。  中沢も写真に視線を向け、ゆっくりと(うなづ)いた。  目元は父に、顔の輪郭は母に似ているようだった。  話題になった翠埜は、話が聞こえなかったかのように次々と肉を切って口に放り込んだ。 「今日は良く食べるわね、ありすちゃん。  好きなだけ食べてちょうだい」  優佳はちょっと苦笑いのような、複雑な表情を見せた。  そこへ、水無瀬が入ってきた。 「奥様、またこのようなものが ───」  黒い封筒に、赤い文字が書かれている。  一目見て顔を歪めた優佳は、席を立ちながら、 「少し、失礼するわ。  気にせず食事を続けてちょうだい」  と言葉を残して、出て行った。 「あれは」 「呪いの手紙らしいの。  5年くらい前から、毎月のように送られてきてるらしくて」  翠埜が吉川に答えた。 「じゃあ、噂は本当だったのね」  大きく口元を歪めて中沢は顔を顰めた。 「魔術信仰で有名なネクロマンシ―・リプライズから呪いの怪文書が届いてるって、大学中で噂になってるよ。  苛々(いらいら)しているときは、呪いがかかってるって茶化す奴もいてさ」  納得した、と言うように吉川が頷く。  水瀬はそそくさとキッチンへと消えて行った。
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