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14
ふと視線を上げた吉川は、部屋の奥にかかっている一枚の肖像写真に気づいた。
「あの写真は ───」
ゆっくりと顔を上げ、視線を向けた優佳が、ポツリと言った。
「一人娘の、愛実よ。
5年前に亡くなって。
生きていれば、あなたたちと同い歳だったはずなの。
うちの人が、ありすちゃんを可愛がるのは、娘の面影を探しているからかも知れないわ」
ため息をつくと、食事の手を止めた。
中沢も写真に視線を向け、ゆっくりと頷いた。
目元は父に、顔の輪郭は母に似ているようだった。
話題になった翠埜は、話が聞こえなかったかのように次々と肉を切って口に放り込んだ。
「今日は良く食べるわね、ありすちゃん。
好きなだけ食べてちょうだい」
優佳はちょっと苦笑いのような、複雑な表情を見せた。
そこへ、水無瀬が入ってきた。
「奥様、またこのようなものが ───」
黒い封筒に、赤い文字が書かれている。
一目見て顔を歪めた優佳は、席を立ちながら、
「少し、失礼するわ。
気にせず食事を続けてちょうだい」
と言葉を残して、出て行った。
「あれは」
「呪いの手紙らしいの。
5年くらい前から、毎月のように送られてきてるらしくて」
翠埜が吉川に答えた。
「じゃあ、噂は本当だったのね」
大きく口元を歪めて中沢は顔を顰めた。
「魔術信仰で有名なネクロマンシ―・リプライズから呪いの怪文書が届いてるって、大学中で噂になってるよ。
苛々しているときは、呪いがかかってるって茶化す奴もいてさ」
納得した、と言うように吉川が頷く。
水瀬はそそくさとキッチンへと消えて行った。
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