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 古城と呼ばれる建物の外観は、主の趣味が色濃く出ている。  そして、メイド募集の広告を見て応募してきた者がいた。 「メイドって、最近はカフェとかで、女の色香でサービスするみたいなイメージあるからな。  応募したのは君だけなんだよ。  でも勘違いしないでくれよ、お手伝いさんとか家政婦では、この館のイメージに合わないからメイドと呼ぶだけだ」  水無瀬を雇ったとき、司郎はそんなことを言っていた。  始めはヒラヒラした、いかにもメイド服という服装だったが、ロリコン趣味丸だしみたいで司郎の方から、 「制服を変えてみようか」  と言いだしたのである。  それでは、と水無瀬は自分で服を作り時々カスタマイズしてファッションを楽しむようになった。  元々手芸が趣味で、身の回りの物は自作していたし、手先が器用だった。  夕食が終わるとキッチンへ食器を下げ、皿洗いをして翌日の食材を確認すると、一息ついて自室へと引き上げて行った。  玄関ロビーから、壁伝いに丸く登っていくサーキュラー階段を、ペタペタとスリッパの音を響かせて上がると、2階の中央の廊下に出る。  左右に部屋があって、住み込みで働いている水無瀬の部屋は奥の左手である。  部屋に入り、ドアを閉めると(えり)元に手をかけた。  脱着できるレースをすべて外すと、すらりとした黒衣に早変わりする。  イメージはヴァンパイアである。  水無瀬が住み込みで働きたい、と思ったのは調月 司郎に近づくためだった。  部屋の中央に、小さなテーブルを置き、黒い布をかけてある。  そして、本物の燭台を中央に立ててあった。  マッチを()り、火をつけると瞑目(めいもく)して何かを呟き始める。  司郎は憎むべき敵である。  そう、魔術の力で鉄槌を下さなくてはならないのだ。  愚かにも、悪魔の(しもべ)である彼女を招き入れ、贅沢の限りを尽くし、のうのうと私腹を肥やしている。  口元のホクロを軽く撫でると、口角を上げた。 「私の妹は、お前の薬を使えずに亡くなった。  お前が、心臓の難病を直す新薬を世に出さないから、間に合わなかったのだ。  同じ苦しみを味わって死ぬと良い ───」  怒気を帯びた目に映る、蝋燭の炎がゆらめいて、オイル(びん)から()れ出た悪魔を呼ぶサタンビーゴーンの香りが鼻腔を突いた。
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