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 東京都祠山署の刑事部捜査三課の大塚 数馬(おおつか かずま)は、働き盛りの45歳である。  平の刑事というものは、地道な聞き込みとか、証拠探しとか、死体探しをどぶ板の下までさらって探す辛抱強さを要する仕事である。  昼ドラで描かれるような、犯人に涙の説教を垂れるようなクライマックスは一生来ないだろう。  いくらか憧れを持たないでもないが、犯罪者は憎むべき敵であって、自分と同じ目線で語る必要ないと教えられてきた。  我々の仕事は、刑法とそれに準ずる法律を犯す者に、定められた罰を与えるのみである。  そのためには地の果てまでも追い、必ず証拠を上げる使命感はあった。  捜査三課長に命じられ、急遽(きゅうきょ)現場に急行することになった。  隣りの席でひっくり返ってネットを見ていた月輪 十完利(つきのわ とかり)の肩をポンと叩き、 「出動だ」  と短く告げた。  覆面のハイブリッドカーの運転席に滑り込むと、ルームミラーとライト、フラッシャー、通信機、ハンドル、ペダルを一通り確認する。  その間に月輪が詳しい情報を集めて助手席にドカリと腰を下ろした。 「サイレンは」 「ナシで行きます」  素のままで行くのだが、パトカーではないから多少のことは大丈夫である。  パトカーが一時停止を怠ったり、制限時速オーバーしたら大変だが。  何度そんなことを考えたかと、大塚は怪訝(けげん)に思いつつ署を出ると最短ルートをナビに探させた。  大体土地勘はあるが、昔城下町だった地区は(たち)が悪い。  クランクや行き止まりが多くて、下調べしないと大きく時間をロスしかねないのだ。 「呪いで殺すって、(おど)されてた件ですよね」  ウキウキした声で月輪が言う。 「魔術とか、俺は信じないが、思い込みで死ぬ人間は確かにいる」  閑静な住宅街に入ると、遠くに(とが)った塔が見えた。 「あれか、いかにもって建物だな」  近所では古城と呼ばれる、その現場はヨーロッパの城を思わせる外観だった。
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