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 門の前で車を停め、大塚は周囲を見回した。  特に人の気配はない。  目くばせをして、2人は車を降りてインターホンを押す。  警察手帳をかざして来意を伝えると、玄関までダッシュしてドアを開けるとなだれ込んだ。  現場は2階、とのことでサーキュラー階段を駆け上がると左手中央のドアが空いていた。 「その、左手のドアが開いている部屋です。  起きたら、主人の司郎が ───」  妻の優佳は呆然として顔面は蒼白だった。  度々脅迫文を送りつけられ、警察に被害届も出していた。  再三の訴えと、魔術信仰の宗教団体ネクロマンシ―・リプライズの標的になっている事実は一本の線に(つな)がってはいる。  だが超常現象で人を殺したと立証はできない。  何度も考えてきた論理が、ただの言い訳ではないのか、と思わないでもない。  逡巡しながらも足を止めることなく部屋に走り込む。  果たして、ベッドの上で苦し気に目を剥いて虚空を睨みつけたまま絶命した遺体と対面した。  髪の毛は半分ほど抜け落ち、まだらになった頭部と、年齢以上に(しわ)を刻み、頬はこけ、腕は()せ細っていた。 「哀れなものだ」  2人の刑事は合掌し瞑目した。 「口腔内に異物はなく、部屋の中に違和感はない」  入口の脇にあるサブテーブルに、郵便物があった。  黒い封筒に赤い文字の脅迫文書が数通あり、未開封の物もあった。  妻によれば昨日は食欲がない、と言って自室でずっと休んでいた。  おかゆを用意したが手をつけなかったという。  2か月ほど前から、時々体調不良で仕事を休むようになり、この2週間で衰弱が進んだそうだ。  奥に住み込みのメイドがいて、夜は香を焚いて何かを(おが)んでいるようである。  水無瀬という25歳のメイドは、ロングヘアに口元のホクロが印象的だった。  彼女は炊事洗濯、掃除、庭の手入れを独りでやっている。  朝、司郎の部屋をノックしても返事がないので合鍵で中へ入って救急へ連絡した。 「はい、私が見つけたときにはこの通りになっていて、往診していただいている先生が駆けつけて死亡診断をしました。  死因は心不全だそうです」  彼女は(うつむ)いて淡々と答えた。
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