24

1/1
前へ
/28ページ
次へ

24

 第一発見者の水無月は、陰のある雰囲気を(まと)っている。  このヨーロッパの古城を思わせる外観と、貴族的な雰囲気の内装に溶け込むキャラクターだと言えた。  魔術信仰をしていたとしても不思議ではない。  任意で部屋を調べさせてもらうと、燭台や魔法陣が描かれた調度品、香炉もあった。  中央のテーブルは儀式の祭壇のようでもあるが、普通に中世ヨーロッパの小物や家具を集めた、女性の部屋とも言えた。  魔術を深く信仰し、悪魔を本当に召喚できると(かたく)なに信じているとしたら、危険な部分もあるだろう。  そもそもこの家にはヨーロッパの甲冑も置いてある。  人殺しに使う道具を家に置いていたら犯罪になるだろうか。  答えはNoである。  何かありそうな気がしなくもないが、決定的なつながりを見いだせなかった。 「では、我々は失礼いたします」  仕方なく、といった気分で玄関を出ようとしたとき、 「あの、この家には出るらしいんです。  私には見えないのですが、主人は何度も見ていたそうです」  ポカンと口を開けたまま、大塚は足を止めて振り向いた。 「出る ───」  ニヤリと笑い、月輪が言った。 「先輩は霊感がないんですよ。  その点私は、少々仏様に接点がありましてね。  心霊体験もあるし、心霊スポット巡りが趣味だったりします」 「なあ、月輪、明日は非番だったよな」 「ええ、よろしければ私が一晩お邪魔してもよろしいですか」  何が起こるか、ワクワクして仕方がない、と目を輝かせて言うのだった。  少し引っかかるところもあったが大塚は後輩を置いて署に戻って報告書を作ることにした。 「お休みのところ、すみません」  妻は、深々と頭を下げると自室へ籠ってしまった。  通夜は行わず、葬儀の手配をするために水無瀬が電話をかけているようだった。  リビングの奥にある娘の肖像写真に向き合った、月輪は物寂しい気分に、一つため息をついたのだった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加