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「よーし終わった!」
「あ、ワンちゃんだ」
ジグソーパズルを作り終わった。私は勢いよく、机の上に突っ伏す。
これはなかなか手強かった。
十五分で終わらせるつもりだったのに、五十分もかかってしまったのだから相当だ。
今朝手を出した幻想的な田舎の絵は、九分で完成したのにな……と思いながら、私はホロホロとパズルを崩す。
まあ、昔は大苦戦していたパズルを、見本の一枚絵をまったく見ずに一時間以内に終わらせた。それだけでもだいぶ成長したと言えるだろう。私は心の中で、自分にそう言い聞かせた。
「あっ、お姉ちゃんがもう崩してる!」
「え、もう?!」
「……ん?」
隣でおにぎりの山の絵が描かれたジグソーパズルと取っ組み合いを演じていた妹が、ふとこちらを見て大きな声を上げた。それに反応して、キッチンにいたお母さんまでがやってくる。お父さんがどうしているかは知らないが、ベッドルームでだらだらラジオを聴いている頃だろう。
お皿を拭きながらこちらにやって来たお母さんが、えっと反応した。
「崩すの早くない!?」
「え、だってもう終わったし」
「それにしたって、ほら、少しの間そのままにしておくとか……その、完成の余韻を楽しむ、みたいなのはないの?」
「だって机を占領したら邪魔じゃん。それに私、これから歯磨きするから」
「……歯を磨いてから崩したら?」
「え、めんどくさい」
「うわあ……」
ワンちゃんが泣くよ……とお母さんが言う。シクシクと嘘泣きをしているけれど、お皿が危ない。落としそうでこっちが怖いのでやめてほしい。
ハアァ、と息を吐きながら、私は手元のパズルの箱をチラリと見た。このジグソーパズルの犬は、写真だった。つぶらな瞳の、可愛らしくふもふもに柔らかそうな白黒の犬。泣いているどころか、これ以上ないというほど幸福そうに笑っている。
私は、つう、と写真を指でなぞりながら口を開いた。
「まあ、この犬はいくらでもいるし。工場で大量生産されてる商品でしょ。流通してる犬だから、このくらい全然問題ないって」
「ワンちゃんもっと泣くよ……」
そうかな。私は首を傾げる。
別に、そんな風には思えなかった。
元々、パズル自体に思い入れなんてない。犬も飼ったことないし、そこまで愛着が湧かない。
そして。
お母さんが、私のために新しいジグソーパズルを買ってきたのは、その三日後のことだった。
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