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「楽しい……」
いつの間にか、笑っていた。
久しぶりに、私は笑っていた。
出来上がったのは、一枚のタペストリーの如くに美しい幻想的な絵。地球のいう星を覆う大地。その隆起した形を、遠大で、不思議で、強力な魅力で表現した芸術。
絵を見ているだけで、命を感じる。
吸い込まれてしまいそう。
あんまりにも綺麗で、いつまでもいつまでも眺めていたい。
大きな大きな、一枚の絵画。
楽しかった。
心から、そう思った。
このパズルを組み立てる間、一個一個のピースが大事な宝だった。
徐々に現れていく絵の全容が、楽しみでしょうがなかった。
そして、今。私はこの完成したジグソーパズルを、一心に眺めている。
なんと幸福なことだろう。
こんな集中できた時間は、近頃一度もなかったように思う。
(ありがとう。……お母さん)
私は心の中で呟く。そして、グズグズにジグソーパズルを壊した。
川の水を掬うようにザアッと持ち上げて、ドザザッと落とす。繋がっているものがあれば、それらを丁寧にときほぐす。寄せ集めて、机の端から落っこちないようにと、ぎゅっぎゅっと一つ所にまとめる。
私は、ピースの山を作った。
「……ふう」
私は時計を見る。
まだ、夜眠る時まで時間はある。
もう一度。
ジグソーパズルのピースの山。小さな宝物の寄せ集めでできあがった、神秘的な鉱山。
私はそこを発掘する。一つ一つ、丁寧に。楽しみながら。
そしてまた、あの美しい絵を、組み立てる。
カチコチと時計の針が進んでいく。
静かに。時間は過ぎていった。
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