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恋は今日もレベルを上げる
「た、だい、まああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
玄関から、もはや絶叫に近い声。
元気ありまくってんなあ、とリビングで作業していた私は振り返った。
家でWEBデザインの仕事をしている二十四歳の私と、中学二年生で十四歳の妹。十歳も年が離れた姉妹というのは、普通の姉妹とはちょっと感覚が違う。親子ではないのだけれど、親子に近いものを感じる時もあるというべきか。
私が自宅でやるタイプの仕事を選んで家にいることが多いのもあるだろう。妹が玄関からダッシュでリビングを通過していくのを、苦笑いしながら見る私である。
「お帰り、揚羽」
「ただいまっです、姉貴殿!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
一体彼女が何をしようとしているのかは明白である。ぼっふん、と鞄が投げ捨てられる音がした。直後に学習机の椅子に激突する音。机の上のパソコンのスイッチを入れにいったのは明らかである。
そう、彼女は今SNSにハマっている。家に帰ってきて早々、Xで知り合あった人とメッセージのやり取りがしたいらしい。勿論、Xはスマホからでも使うことができるはずなのだが、彼女の場合はいくつかの理由からパソコンでやりたがっているようなのだった。
「あんたそんなにせかせかするなら、スマホでやり取りすりゃいいのに。あと、手洗ってからスイッチ入れにいきなよ」
私がリビングから声をかけると、だってえ、とすねたような声が返ってくる。
「あたしのパソコン、立ち上がるのも遅いんだもん。先にスイッチ入れてから手洗いうがいトイレした方が効率いいもんー。あとあとあと、あたしのスマホ使いにくい。容量少ないからアプリほんと入らないし、プラン安いからすぐ速度制限入るしー」
「速度制限入るのはあんたが外で動画見るからでしょうが。早くアルバイトして自分で高いスマホ買いなねー」
「ええええ、姉貴奢ってよお、稼いでんでしょ?」
「底辺デザイナーの仕事が高給取りだとマジで思ってます?ねえ?」
そもそもそんな稼いでたら、さっさと家出て一人暮らししとるわい、と心の中で。
相変わらず、妹の揚羽は世間知らずでいけない。そして、そういうところが可愛いと思っている私がいるのも事実である。
若い者は、まだまだこれから人生経験を積んでいけばいいのである。まあ私も、さほど偉そうに言えるほど年を食っているわけではないのだけれど。
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