第2章 「悲しみ」という名の感情②

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第2章 「悲しみ」という名の感情②

 薬剤性脱毛症。それは、私にとって未知の病気だった。なんで。なんで私がこんな目に遭う必要があるのだろうか。 自分にとって、この感情が「悲しみ」なのか、それとも「絶望」なのか、もう分からなくなってしまっていた。  今は中学2年生だが、小学1年生の頃に書いた「僕・私の夢」と言う題名の作文。 そこに私は、「素直な歌手」と書いた。“素直”と言うのは、自分の気持ちに素直とかいう。綺麗事なんかじゃなくて、自分の“仮面”を被らず、自分の本当の姿を見せられる人間、ということだ。自分にも他人にも素直。 その夢は未だに変わっていない。だけど病気のせいで、諦める他無くなってしまった。 それがみんなにとって1番良いのかもしれないけれど、私はそれに納得がいかなかった。 あの頃は、自分に対してとても素直だったと感じる。嫌な時は“嫌だ”といい、面白い時は“面白い”と言えた。   でも、今はどうだろう。例えば腕に麻酔の針を通す時にちくりとする痛み。ついこの前までは注射が大の苦手で、刺されてもお利口さんにしている周りの年下の子を見て尊敬していたはずだ。それなのに今では、針を刺されている間も、ずっと偽りの笑顔でいられる。 そうしていられるのは、私が成長したからじゃない。もしそうであったら、友人にも恥じず、むしろ自慢して歩き回っていただろう。   じゃあ、なぜ偽りの「笑顔」でいられるのだろう。その答えは簡単だ。もう、慣れてしまったから。  闘病生活に、慣れてしまっていたから。  もう、何もかもどうでも良くなってしまったから。  周りの人達を困らせないようにしようと思えるようになったから。  そんなことを考えながら、ベッドの傍に置いてあるギターを手に取る。 このギターを弾くことも、もうないだろう。 ーガラガラガラガラ。 ドアが音を立てて開く。 そこにいたのは、私のお世話係の看護師さん、野原さんだった。
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