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第1章 「悲しみ」という名の感情①
消毒の匂いがする。この匂いも、三ヶ月目ともなれば慣れてしまった。
私の居場所はここしかない。そんな事実から目を背ける事ができない私にとっていわば、ここは天国と言っても過言では無いのかもしれない。母さんとも長い間会っていない。たまに着替えをフロントに渡してすぐに帰って行くらしい。私の担当の看護師さんから聞いた。
父さんは、私が物心のつく頃にはいなかった。
もう、母さんとはまともに喋れないのかな。そんなことを考えると、鳥肌が立つ。すごい恐怖に襲われる。それだけじゃない。もうこの病気から立ち上がる事ができないのかと思う時だってある。
薬剤生脱毛症。それは、私にとって未知の病気だった。もう、前みたいに街中を歩く事ができない。
怖いからだ。通行人に指を指されて笑い物にされるなんて、メンタルの弱い私には耐えられない。
私にとって、今までは当たり前だった生活が、今では憧れに変わった。
学校帰りに、友達と喧嘩した日。
歌唱コンテストで落ちた日。
飼ってた犬のカノンが天国に帰った日。
全部悲しい日だった。だけど今の私の悲しみは、「悲しみ」という一つの感情の一種なのかさえも分からないのだ。それがもどかしくてもう、何もかもが嫌になってしまう。
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