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第3話
まだ朝だとういうのに、既に焼き殺さんばかりの日差しが降り注いでいる。これから半日、授業という苦行に加えて、この暑さにも耐えなくちゃいけないのか。そう思うと憂鬱になった。道行く人の大半は、きっとあたしと同じ心境なんじゃないかな。
学生服の群れは、信号機の前で固まっている。彼らの白いシャツに混ざって、あたしも信号が青に変わるのを待っていた。
こちら側はまだ並木道だから日陰があるけど、信号を渡った先の道は田んぼに沿って伸びていて、太陽から守ってくれるものなどない。
げんなりしつつも成す術もなく立っていると、対岸の歩道で信号待ちをしている学生に目が留まる。途端にギクリとした。
強い日差しで白っぽい景色の中、とても目立つ黒い詰襟の学生服の少年。見間違えるわけがない。この間の彼だ。
どうしよう。
信号が青になってしまったら、彼の方へ行かなくてはならなくなる。横を通り過ぎられるかな……いや、もしすれ違い様に、腕を掴まれてしまったら。
「真帆」
「ひゃあっ!?」
ビックリした。背後に人が来てたなんて、全く気が付かなかった……。つい、素っ頓狂な声をあげちゃった。
「なんて声出すのよ!」
聞き慣れた声に振り返るとさっちゃんがいた。あたしの大声に余程驚いたようで、胸を手で押さえている。
「なあんだ。さっちゃんか」
「なんだじゃないわよ」
眉尻を吊り上げるさっちゃんにごめんごめん、と謝った。あははと笑いながら、向かいの歩道をチラリと窺う。
うん。やっぱりまだいる。
「どうかした?」
「ううん! なんでも!」
慌てて否定したものの、さっちゃんは不審そうにしている。マズった。見るべきじゃなかった。
どう誤魔化そうか脳を回転させるあたしに、さっちゃんは特に気にしていなかったみたいで、ほら行くよと促した。見ると、信号が青に変わっている。
「あッちょっと待って!」
歩き出す学生たちの中、彼はまだ信号機の下にじっと立っていた。
呼び止められたさっちゃんは怪訝そうにしている。
ええっと。ええっと。
「あのね、コンビニに寄りたいんだ!付き合ってくれる?」
呼び止めた言い訳を何とか繰り出す。
「コンビニ? 遅刻するわよ」
「お昼忘れちゃったの! コンビニで買いたいんだ」
お願い、と両手を合わせた。併せ技で、上目遣いになって相手を見る。さっちゃんは盛大に溜息をついた。
「しょうがないなぁ」
「やった!」
さっちゃんはあたしに甘い。なんだかんだとお願いをいつも聞いてくれる。
あたしは内心ほっとした。そして、さっちゃんの腕を引っ張る。早く早くと子供のように急かして、信号とは反対方向へ進んだ。
もう背後を窺うなんてヘマはしない。
けれど、剥き出しのうなじに少年の視線が注がれている気がして、思わず首筋を撫でた。
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