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第2話
「真帆!」
翌日、教室に着くとさっちゃんが詰め寄ってきた。
朝の教室はガヤガヤとうるさい。座って机に教材をしまっている者、隅で友人と談笑している者、イスにだらしなく腰掛け下敷きをうちわ代わりにしているのは自転車登校組かな。みんな思い思いに始業までの時間を過ごしている。
あたしは教室に入るや否や話しかけられたので、カバンを持って入り口に立ったままだ。
呼びかけた相手は眉を吊り上げ、足音荒く近付いてくる。
「な、なに? さっちゃん」
ギクリと身を強張らせながら聞くと、なにじゃないわよと怒られた。
「昨日は急にいなくなって心配したじゃない!」
うん、やっぱりそのことだよね……。
えっとー、とあたしが言葉を探していると、騒ぎを聞きつけた他の友人が集まってきた。
「なになに? どうしたの?」
「あ、真帆おはよー」
口々に話しかけられて、とりあえずあたしも、おはよーと返した。
「そうだ! 真帆、落とし物は見つかった?」
「あ、そうそう! いきなり落とし物しちゃった、とか言って走っていっちゃうんだもん。大丈夫だったー?」
問われて、そういえばそんな言い訳をしたんだったと思い出す。
「へーき、へーき! ちゃんと見つかったよー。ポケットにサイフがなかった時は焦ったけど。歩いた場所をあっちこっち探してね。どこにもなくて、うわあああっもうサイアクーってへこんで、いったん家に戻ったの。そしたら、机の上に置いてあったんだ!」
そこでジャジャーンと口で言って、サイフを取り出した。
「あはは、なにやってんのよ」
「でも、真帆らしいねー」
「サイフは見つかったけど、お祭りは全然満喫できなかったよ。あーあ、楽しみにしてたのにー」
子供みたいにくずってみせると2人はのってくれて、よしよしと頭を撫でられる。
「そうだねー。真帆、楽しみしてたもんね、お祭り」
「おいしかったよー、たこ焼き。あとリンゴ飴に焼きそば、綿あめも食べたなあ。やっぱりお祭りで食べると違うよねー」
「もう! やーめーてーよー」
昨日のお祭りがいかに楽しかったかを語って聞かせる2人に、意地悪! と頬を膨らませる。すると、声を上げて笑われた。そこに疑っている様子は全くない。どうやら、上手く誤魔化せたらしい。
あたしは内心ほっとして、ふとさっきからさっちゃんが黙っているのに気が付く。目を向けると、さっちゃんは眉間にしわを寄せたままこちらを睨んでいた。
あ、これは……信じてない? どうしよう。
さっちゃんに声をかけようとした時、チャイムが鳴った。時計を見ると、いつの間にか始業の時刻になっている。そういえば、あたしはカバンを持ったまま何の準備もしていない。
チャイムをきっかけに友人2人は、じゃーねーと行ってしまう。さっちゃんも自分の席に戻ってしまったので、昨日のことについて弁明するタイミングを逃してしまった。
もう一度さっちゃんに説明しようか悩んだけど、結局迷ったまま放課後になってしまった。
ひょっとしたら落とし物をしたという話を、さっちゃんは信じているかもしれない。見破られているというのは、あたしの杞憂かも。
うん。帰り道でさりげなく話してみよう。
そう決めて、グッと肩にかけたカバンの紐を握りしめると、さっちゃんがやって来た。なにやら申し訳なさそうに眉尻を下げている。
「ごめん。今日、委員会があるの忘れてた。先に帰ってて」
ええっ!?
せっかく決意したっていうのに……
出鼻をくじかれたあたしは内心そう思ったけど、顔には出さずに手をブンブンと振った。
「いいよ、いいよ。気にしないで。あたし待ってようか?」
「ううん。遅くなりそうだから、大丈夫」
あたしの提案にありがとう、と言った後、さっちゃんは教室を出て行った。
仕方がないので、あたしも一人で帰ることにする。
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