第2話

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 あたしが通っている学校は、だだっ広い田んぼに囲まれている。この季節の田んぼは緑一色で、風が吹くと日光を反射させてサワサワと波打った。  青い空と相まって、いかにも夏っぽい風景である。画としては爽やかだけれど、日陰が全くないあぜ道を歩いて登下校しなくてはならないこちらとしては、手放しで良いと言うことはできなかった。  照りつける太陽に、肌がじりじりと焼かれるのを感じる。日焼けクリームを塗っているけど、汗で流れてしまっているので効果は期待できない。  暑さを耐えているあたしの横を、自転車が通り過ぎて行く。乗っているのは、あたしと同じ制服を着た男の子だ。  さっちゃんのこと、昨日のことを考えていたあたしの思考が一時中断する。 「いいなあ、自転車。風が気持ちよさそう」  うらやましくて、風を切る自転車を目で追う。自転車はあぜ道にポツンとあるバス停を通過して、そのまま遠ざかっていった。  よくあるバス停看板のそばには、屋根付きの待合所がある。といっても、小屋と呼ぶのもおこがましいような簡素なものだ。屋根はあるけど扉はなく、三方を壁で囲んでいるだけ。かなり年季が入っており、壁も屋根もボロボロである。  中には一応ベンチがあるものの、クモの巣や羽虫の死骸で汚れているので、使っている人を見たことはない。かくいうあたしも雨宿りで寄ったことはあるけど、ベンチに腰掛けようとは思わなかった。  その待合所のベンチに、誰かが座っている。 「あそこに座れるなんてすごいなあ」  と、まずあたしは感心した。次にあれ? とおかしな点に気付く。  相手はどうやら子供のようで、地面に足が届かずにぶらぶらとさせていた。小さい足が履いているのは、どういうわけか草履である。細い足は浴衣から伸びていた。浴衣はお祭りで見るような華やかなものではなく、無地の赤茶っぽいものだ。  でも、あたしがおかしいと感じたのは、その服装についてではない。体と頭のバランスがおかしかったのだ。  地味な浴衣に包まれた体は小さく、肩から伸びる首は細い。けれど、その首が支えている頭は、異様なほど大きかった。頭は肩幅をはるかに超えている。車のタイヤほどあるんじゃないか。小さい体に不釣り合いな頭は、足をぶらぶらさせるのに合わせて揺れている。かくんかくんと動く様子に、玩具の赤べこを連想した。  どうして一目で気がつかなかったのか。あれは、人間じゃない。 ーー止まっちゃダメ。このまま歩いて。でないと、相手に気付かれてしまう……あたしが見えているって。  あたしは強いてゆっくりと歩きながら、その子の前を歩いて行く。視線を前方に固定して進む。あとちょっとで待合所を通り過ぎるというところで、ねぇ、と声をかけられた。
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