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知人と雑談をしていたときのことだ。
話の流れは覚えていないが、私が
「よく怖い話とかで、車で夜の山道を走ってたら往生してる人がいて、その人を車に乗せたら……みたいなシチュエーションがありますけど、知らない人の車に乗るのも、知らない人を乗せるのも同じくらいリスキーですよね」
と、だいたいこんな感じのことを言った。
すると彼がこんな話を始めた。
◆
大学生のとき、天体観測が趣味のFという友人に誘われ、僕も含めた友達四人で山にドライブに行くことになりました。
四人の中で唯一実家暮らしだったFが家族からワゴン車を借りてきて、それで車中泊をして、夜通し星を見る予定でした。僕も他二人の友人も、特に星に興味はなかったのですが、友達と騒げるならなんでもよかったのです。Fもそれはわかっていました。
「実は俺も初めて行く場所なんだよ。迷ったらごめん」
「そんな有名なとこじゃないんだ?」
「ネットで穴場だって紹介されてたんだ。地図見たら、車で行けるなって思ってさ」
「おいおい、大丈夫かよ」
そんな他愛ない話をしながら、ワゴン車は夕暮れの山道を登って行きました。時折、人家や飲食店やら、何かの会社の跡地らしきものを通り過ぎました。
人は全く歩いておらず、対向車線を走る車はほとんどが大型トラックでした。それもやがて見なくなって、車は一方通行の狭い道に入りました。
右手は石の積まれた擁壁、左手はガードレールと暗い林。林と言ってもほとんど崖のようなもので、もし運転を誤ったらそのままゴロゴロ落下してしまいそうだな。そんなことを考えていたときでした。
Fがいきなりブレーキを踏んだのです。
「うわっ」
「なんだよ、急に」
後部座席の友人が文句を言うと、Fは「だって……」と前方を示しました。
見ると、道路のほとんど真ん中に何かがいました。
ぎょっとしましたが、よく見ると女性がうずくまっているのです。その傍らにもう一人女性が立っていて、僕たちの方に顔を向けました。
「なんだ、こんなところに」
「やべえよ、どうする」
「どうするったってなあ。このまま進むわけにいかないだろ。この狭い道で引き返すのも無理だ」
「いったい、こんなとこで何やってるんだ?」
様子をうかがうと、どうやらうずくまっている人を、もう一人がなだめているようでした。
意を決した友人の一人が「俺、ちょっと話聞いてくるよ」と車を降りました。友人は立っていた女性――三十代くらいに見えました――と、何事か話すとすぐに車に戻ってきました。
「あの人たち、友達とドライブに来たらしいんだが、途中でトラブルになって車降ろされて置いていかれちまったんだと」
「なんだそれ。あの人たち、携帯持ってないのか? ここ、圏外じゃないよな」
「車に置きっぱなしだったんだと。 もう一人は持ってるらしいんだが、充電切れで役に立たないみたいだ」
「それで立ち往生かよ。なんだかなあ」
僕たちは彼女らを気の毒に思い、幸いワゴン車で車内に余裕があるし、乗せてやろうかという話になったのです。
危ないんじゃないか、という気持ちがなかったわけではありません。でも、そのときは深く考えませんでした。
向こうは女ふたりでこっちは男四人なんだから、何かあったところで大丈夫だろうってね。
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