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「うん。あ、これから好きになろうと思えば、なれるかもしれないけど」
「なろうと思えばって」
そう言ったヤンの声はかすれていた。
「なあニナ。『やれる』のと『したい』のじゃ、雲泥の差があるんだぞ」
ひどく切迫した表情。いつまでも力をこめたまま、離す気配のない両腕。
その目元が朱に染まっているのに気づき、私の胸はどきりと鳴った。まさか。
「……ちなみに俺は今、もう一回、あんたとキスしたいんだけど」
熱を帯びて鋭くなる視線に、心臓をぎゅっと鷲づかみにされる。
「白状するとさ。俺、ニナがずっと好きだったんだ、初めて店に来た時から。ただ、あんたのパーティは恋愛事情がややこしかったろ。それで一歩引いて満足してたんだよ、話を聞くだけで」
とつとつと低い声で囁かれる。
「だが一緒にこの山に登って、気が変わった。あんたに貴族は似合わないし、田舎でその力を埋もれさせるのも惜しい。――だからニナ、俺と店をやらないか」
「道具屋さんを?」
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