1 ヴェセルの酒場

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 目の前にいるのは青紫の短髪に鉄紺(てつこん)色の目をした青年だ。年は二つ上で二十六。アイボリーの綿シャツを着て、黒長ズボンを履いている。 昔から私たちパーティ御用達の、腕利(うでき)きの道具屋さんなんだけど、いつも私のピンチになるとなぜか現れる、とってもいい人。 「ええ、どーせ私は、エリザベート姫みたいに綺麗(きれい)じゃないもん。胸だってぺたんこだし、背も高いし。か、髪だって、みかん色で美味(おい)しそうってしか言われないしねっ」 「なにそれ。レオンハルトがそう言ったの」 「ちがう、ミカがー」  私は思わず頭を(かか)えた。 「……ひょっとしてミカエルとも、なにかあったのか?」  唇がゆがむ。図星だった。あのイケメン聖騎士ったら、本当になにを考えているんだか、全然わからない。 「もー、やだぁ。倒さなければよかった、魔王なんかっ。そしたらずっと、みんなで仲良く旅していられたのに……」  下をむくと、裾が(ふく)らんだ緑の長ズボンと革ブーツが、涙で(ゆが)んで見えた。
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