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左手で持っている皿、そこに載せられたおやつを見ているのだろう。皿の上には、水洗いを終えた一玉のりんごと、皮むきに最適な包丁がある。この土地でしか育たない特別な品種だ。
「今が旬なんですって。きっといつにも増しておいしいわ」
神の世界に住む者は皆、定期的にりんごを食べることで半永久的な若さと健康を保ち、魔力を補充している。
魔力がなければ、神は絶大な力を発揮することができない。絶大な力がなければ、遠くない未来に訪れる神々の黄昏――契約違反という悪行の報いを受ける運命――にあらがうこともできない。
おやつと銘打っていても、りんごを食べるという行為は神を神たらしめるために必要な儀式なのだ。
「危ないから私が切るわ。フノスの分も、ゲルセミの分もちゃんと作るから、いい子で待つのよ?」
姉妹それぞれの目が、りんごと同じくらい金色に輝いている。どちらも聞き分けるつもりはなさそうだ。
案の定、広げられていた本の表紙を閉じる音と、姉をそっちのけにして駆け出す足音がほぼ同時に鳴った。
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