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「うさぎりんごではなく、輪切りにしましょう」
両名とも察したのか、太ももにしがみついていた腕の力が緩む。しかし遅い。推察の通りであれば、優先すべきは――。
「貴女をね」
皿から手を離す一方で、左脚を動かして妹の足に絡ませた。
引っ掛けられたことで妹は体勢を崩す。追い打ちをかけるように、手ぶらにした左で妹の胸ぐらをつかみ、床に押さえつけた。
皿が割れる瞬間を尻目に姉の様子をうかがう。
「お、おう」
難を逃れ、よろけながら発せられた声に敵意は感じられない。言ってみれば、立ちすくんでいる。やはり気に病む必要はなさそうだ。
「お母さま、苦しいよ」
視線を戻せば、妹が頭を振り乱していた。
細い髪の毛の隙間から耳が見える。開けたはずの穴が見当たらない。いつもは耳たぶに小さな穴があって、薄黄色の五芒星が収まっているはずなのに。
「いやだ! ゲルセミをはなして!」
どの口が自分のことを「ゲルセミ」と呼ぶのか。虫酸が走り、握りしめた包丁を首に向けて振り下ろした。
刃が目標を捉える。
雪を思わせる白い肌に刃先が食い込んだばかりか、端から端まで見事に断ち切った。
「ぉ、かぁ……さま」
生首になっても話せる人形を産んだ覚えはないわ。
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