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心の中で毒を吐き、偽のゲルセミと包丁を交互に見た。一撃で仕留められるほどの性能は期待していなかった。ひとまず傷を負わせることができれば満足だったのに。
「どうりで足音が軽いわけだわ。そこまで腐っていたのね」
肉が、ではない。あれに動物としての柔らかさやぬくもりなど、ちっとも感じなかった。
現に切り口から赤い色が流れ出てくることはない。ただ、血液の代理とも言うべき青い炎が、切り離された塊のそれぞれを燃やしている。
最後に残った物体は木炭だった。
片割れが木炭の近くで呆然としている。妹が死んでいく様を、姉はおびえた目で見ていた。この期に及んで演技を続けるつもりのようだ。
姉は血の気が引いた顔で後ずさった。その近くには皿から転げ落ちたりんごもあるのだが、彼女はそれに気付かず踏みつけて尻餅をつく。
姉の元へ向かうために汚らわしい木炭を踏み越え、腰を折って目線を合わせた。
「げ、ゲル――」
「それ以上、私の愛らしい宝石たちを土臭い息で汚さないでちょうだい」
名前を呼ぼうとする口の中に、包丁の切っ先を突っ込む。
「はじめから、察していたわ。貴女たちはフェッチね」
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