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用語辞書「フェッチ」
フェッチとは「そっくりさん」という意味だ。
その正体は木片である。魔法をかけられているために容姿を偽って、その人物に見せかけることができる。
神とは相いれない存在である妖精――体が小さくて力も弱い悪魔――が得意とする魔法のひとつだった。
もともとは「取り替え子」と呼ばれる、妖精の世界に根づく風習のために用意されたと聞く。妖精はしばしば人間を連れ去ることがあり、自分たちが産んだ子供、またはフェッチを替玉として置いていくのだ。
「フェッチはあくまでも幻覚だから、話すことはおろか身動きすらしないと小耳に挟んだのだけど……」
右腕は伸ばしたまま、左膝と左肘を突き合わせて頬づえをつく。
姉妹に扮したフェッチは室内を自由に動き回り、物に触れて、該当者の性格や行動まで真似てみせた。とんだ規格外がいたものだ。
「貴女の主人は、どんな妖精なのかしら。妖精は光を厭う。悪魔ならいざ知らず、小悪魔にとってこの地は猛毒も同然だわ」
尋問のため、一時的に刃渡りを口内から抜き去り、包丁の腹でフェッチの顎を持ち上げた。硬い喉から引きつった悲鳴が上がる。
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