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「どなたが運んでいらしたの? 番人の目を盗んだのだから、さぞかし位の高い妖精なのでしょう」
本物はどこにいるのか。
一番知りたいことを言外に匂わせたつもりだったが、フェッチは目に涙をためるだけだった。私は頬づえをつくのをやめた。
「だんまりを決め込むところまでフノスに似せなくていいのよ」
顎に添えていた包丁を前進させて喉を突き刺す。
「ガッ、ァアアッ!」
娘とは似ても似つかない醜い声だ。
フェッチはのたうち回り、ややあって青い炎に身を包まれた。青い炎は、ゲルセミに扮したフェッチが燃えた時の色よりも柔らかい。地平線近くの空に似ている。その青に、番人の髪色が重なった。
「ヘイムダルが頼みの綱ね」
木炭に変わり果てたフェッチを見下ろして呟く。
世界と世界をつなぐ虹の橋で見張りを任されているヘイムダルが、どうして妖精の侵入を許したのかはわからない。とはいえ、ヘイムダルはすでにこの事態に気付き、自らの失態を悔いていることだろう。
なぜなら、彼は――。
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