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煎じ詰めて、木炭に刺さった包丁を引き抜こうと手を伸ばす。その瞬間、部屋全体を占める空気が変わった。反射的に手を引っ込めて自分の肩を抱く。布越しに伝わる体温に安らぎを感じるなんて、どうかしている。
子供部屋を満たす空気は今や澄み切っていた。嗅ぎ慣れた冬の匂いだ。化けの皮が剥がれたことで幻覚の維持ができなくなったのだろう。
巻き返しを図るためにも、このままずっと屈んでいるわけにはいかない。両膝に手を当てて立ち上がり、視線を巡らす。
壁際に沿って置かれた寝具に異常はない。
立ち並ぶ本棚も内容に基づいて分類されている。
魔法書の棚から抜き取られた一冊は、部屋の中央に位置する背の低い机の上にある。フェッチたちが何食わぬ顔で過ごしていた場所だ。
その先には窓が設けられているのだが、それが壊されていることに今さらながら気付いた。なるほど、冷気が吹き込んでくるわけだ。
本物の姉妹が使ったと見られる武器も窓辺に落ちているというのに、今まで何をしていたのか。
「不覚を取ったわ」
ひとりごち、地団駄を踏む。
厨房でりんごを洗っている場合ではなかった。子供部屋から一番遠い場所にいたとはいえ、異変に気付かないとは女主人の恥である。
「優先すべきは、矜持よりも家族への愛」
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