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はじめから
扉を開けると冷たい土の臭いがした。神の世界でこのような異臭が漂うとは、なんと珍しい。
私たちは不老に限りなく近い種族だ。めったなことでは死なないからこそ悪目立ちする。今すぐにでも、うじ虫が湧くのではないだろうか。
嫌悪を顔に出さないよう努めながら、素足を一歩前に出す。
ぬかるみに足を踏み入れた時の記憶がよみがえる。足裏が泥塗れになる錯覚を起こしたせいで、ねっとりとした幻聴も聞こえた。
実際に踏んだのは――金塊を敷き詰めた床なのに。
「お母さま!」
幼女の愛らしい声が重なった。床のみならず、壁、天井までも金であつらえた空間によく通る声だ。
私は右手を背中に回して扉を閉めた。
ここは子供部屋だ。旅好きな夫との間に生まれた二柱の女神が生活している。
出入り口付近から姉妹の居場所までは、少しばかり距離があいていた。大股で行けば五、六歩というところか。
姉は、背の低い机に備えられた椅子に座り、本を広げている。対する妹は、姉の背後に立ち、彼女の頭に自分の顎を乗せて身を預けていた。
読書をする姉と邪魔をする妹。
二柱とも今はこちらに顔を向けているが、つい先ほどまではそうやって過ごしていたのだろう。
「おやつの時間よ」
二柱の視線が私の顔から少し横にそれた。
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