不思議な館にて

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不思議な館にて

「…ボーッとしちゃって、どうしたの?」 「…?!えっと…?」 気がつくと、私は不思議な洋館にいた。まるで、おとぎ話にでも出てきそうな洋館だ。ハッと顔をあげると、さっきここで出会った少女、神永 千世(かみなが ちせ)が私の前で手を振っていた。 「ごめん、ちょっとボーッとしてた。」 「もう!ここから出るって話だったでしょ!」 「そうだ…ここにいたら鬼に出くわしちゃうかもしれないんだよね?」 「そうだよ!ここにいたら鬼に大切なものを取られちゃうんだよ!それで、一生ここから出られなくなって…、何百回も同じことをするハメになって…、精神がぶっ壊れた所で、鬼に喰われちゃうんだよ!」 そうだ、そんな話をさっき千世に聞いたばかりだった。そんなことを考えていると、床に何か紙が落ちていることに気がついた。 「…何これ?」 「何かの手掛かりかもしれないよ、美晴(みはる)ちゃん!」 「そうだね。」 紙を見てみると、そこにはクイズの問題のような言葉が載っていた。これを解かなければいけないのか、と思いながら紙を裏返すと、そこには、小さく『答え 鬼』と書いてあった。 「何これ…、もう答え書いてくれてあるんだけど。」 「えっ?そんなことないよ?それはさっき美晴ちゃんが解いたでしょ?」 「…そうだったっけ?」 では次はどうすればいいのだろう、と考えていると、千世が何か紙を持ってきた。その紙にも、何かクイズのような文章が載っていた。 「何々…『アジサイの色は?』…これだけで分かるわけなくない?色んな色あるし…」 そんなことを思いながらまた紙を裏返すと、また答えが書いてあった。そこには、『答え 紫』と書かれている。 「あっ、そうか。アジサイって、紫陽花って書くもんね。」 「あっ、間違えちゃった。次の問題はこれだったね!」 そう言って、千世は笑ってまた紙を持ってくる。その紙には、またクイズが載っている。もう、これで何回目なんだろう…。そんなことを考えながらまた紙を裏返す。そこには、さっきみたいに『答え』の記述はなかった。その代わりに、脅しのような言葉が書いてあったのだ。 『鬼はお前のすぐ近く。ーーを取られる前に、ここから逃げなければいけない。(ーーの部分は消しゴムで乱暴に消されていて、何か書いてあったということしかわからない。)』 「え…?」 すぐ近くに、鬼がいる…?けれど、そんな風には思えない。ここは静まり返っているし、鬼がすぐ近くに潜んでいるならば、生き物の気配ぐらいは感じるはずだ。ここには、私と千世しかいない。鬼がいるとはとても思えないのだ。その時、ガタン、と何かが倒れるような音がした。その方角を見てみると、倒れたのはどうしてここにあるのかはよく分からないが、野球バットのようだった。 「…わかった!これで、窓を割って外に出れば…!」 そう思って窓を探したけれど、この洋館にはどうやら窓がないようだった。他にも破壊できそうな箇所はなく、仕方なくバットを置いた。 「でも、鬼はすぐ近くにいるって…鬼はいるとしたらどこにいるんだろう…?それに、大切なものを取られるって…」 そんな時、ふと思ったのだ。さっきから千世を見かけていないことに。『鬼はすぐ近くにいる。』この文章を思い出す度に、何か引っかかる。 「鬼は、私の近くに…?」 そうだったのか、と思った。私の近くにいた人物、千世こそが、この洋館に棲む鬼だったのだ。千世から離れないと、と思った瞬間、冷たい手が私の肩に触れる。 「残念、時間切れだよ、美晴ちゃん。」 後ろからそんな声が聞こえてくる。怖くて動けない。爪が首に当たっている。動いた瞬間、首を跳ねられそうだ。 「また時間切れだよ、もう何回目?」 「え…?」 「お前はもう何回も何回も何回も何回も失敗してる。過去の自分の忠告にも、気づくのが遅すぎるんだよ。」 それを聞いて、少し疑問に思った。私は、何回も何回も失敗している?そんなことはない。私はまだこの館に来たばかりなのだから。 「さぁて…そろそろ食事の時間だ。お前の大切なもの…『記憶』を、戴こう。お前は永遠にここをさまよえばいい!」 千世は…鬼は、そう言って私の額に触れる。そこで、私は気を失った。
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