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そして小道を外れ、彼女に声を掛けられた場所まで来ると、ちょうど夕日が山の端に沈むところだった。
「……綺麗だな」
ふと振り向いてみたが、当然そこには誰もいなかった。
あの時、彼女が自分を見つけてくれたのは奇跡に近かったのかもしれない。
余計な心配をかけたことを謝れなければ、と千影は夕日に背を向けて森の中を歩き出し、小道へと戻ってロッジに帰った。
しかし、彼女を見かけることはなかった。
ロッジの周りでも、ロッジの中でも、オーナー夫妻や他のアルバイトを見かけるだけで、彼女はいない。
それでも夕食時に期待してテーブルに着いたが、やはり彼女はおらず、ふたりのアルバイトが接客をしていた。
彼女は去年のアルバイトのみで、今年は来ていないのだろう。
約束を交わしたからと言って、名前も聞かずにあれきりだったのだから、会える保障などどこにもなかったのだ。
「……当たり前だよな」
期待してしまった愚かな自分に、深いため息を吐いた。
夕食後はダイニングルームが解放されており、コーヒーや紅茶が自由に飲めるようになっている。
他の客は部屋に戻っていき、千影はひとりそこに残って、コーヒーを淹れた。カップを持ち、ソファに移動する。
座ろうとしたその時、すぐそばの壁に飾ってある写真が目についた。千影はコーヒーテーブルにカップを置き、写真に近づいてみる。
映っていたのはオーナー夫妻と、ひとりの女性だった。
「あ……!」
間違いない、彼女だ。
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