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嬉しくてたまらない提案だが、夕美はひとつ息を吸って不安に思うことを口にした。
「私がいても邪魔にならない? 私がいることで、お仕事に集中できなくなるのだけはイヤなの」
千影は常に忙しい身だ。
彼のことを注意深く見ていた夕美にはよくわかっている。そして彼が自分の会社と仕事に誇りを持ち、何よりも大切にしていることも。
だからこそ、自分の存在が妨げになるようなことだけはしたくなかった。
すると、千影が驚いた顔をしてすぐに否定した。
「そんなことあるわけないじゃないか。君がそばにいてくれるだけでモチベーションが上がる。夕美とふたりで会うようになってからの僕は、今まで以上に仕事に邁進しているんだよ」
「千影さん……」
「僕も夕美の邪魔はしない。君の趣味にも口出しをすることはないから、安心して過ごしてほしい」
趣味、というキーワードにドキーンと夕美の心臓が飛び跳ねる。「神原社長を推す」趣味を諦めたくはなかったので、それはありがたいのだが、同じ居住空間にいてバレないだろうか。
……と、そこまで思った夕美は、心の中で首を横に振った。
そんなことは取るに足らない小さな問題だ。
千影と一緒にいられる幸せが一番だし、彼が望むなら、それを叶えてあげたい。千影の幸せが夕美の幸せなのだから。
夕美は彼の胸に顔を押しつけた。
「まだ何か不安があるの?」
「ううん。あれこれ考えるのをやめようと思っただけ。私は千影さんと結婚を決めたんだもの。一緒にいたいのは私も同じだから、その気持ちを優先させたい」
「じゃあ……」
「うん、よろしくお願いします」
「ありがとう、夕美! 大切にするよ、君のこと。うんと大切にする……!」
歓喜の声を上げた千影は、強い力で夕美を抱きしめ、何度も「ありがとう」を言っては、夕美にキスを降らし続けた。
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