151人が本棚に入れています
本棚に追加
現在二十九歳の彼が、今の会社を立ち上げたのが二十五歳の時。
その「nano-haカンパニー」は「街づくり」を基本としたエリアマネジメントを手がける会社だ。
エリアの特性に応じて、地域活性化のためのイベント企画や運営、地域資源の調査とそれを生かした産業や商業、開発の提案など……、そこに住む人たちが主体となって地域の魅力づくりをしていけるよう、マネジメントしていくのである。
それぞれの地域に密着して事業に関わるのは簡単なことではない。
だが、神原社長はいつも楽しそうに仕事に取り組んでいた。
そして夕美が忘れられない、就活の面接で彼が言った言葉がある。
「僕は社会貢献できる、この事業に誇りを持っています。地方へ旅行に訪れた先で、心を癒やしてくれた場所がたくさんありました。その地域を寂れさせることのないお手伝いと、そこに住む人たちに貢献できるのなら、こんなに嬉しいことはありません」
この時の彼の真摯な表情が、今でも夕美の目に焼き付いて離れない。
「奥寺さんもそういう気持ちで弊社を受けてくださったようで、心からありがたいことだと思っています」
地方出身の夕美は、神原社長の言葉は胸を打たれたのだ。
人事部長の質問で硬くなっていた夕美だが、社長の言葉を聞いたあとは(絶対に受かって、社長のお役に立ちたい!)と、強い意志を持って受け答えを続けたのだった。
「内定が決まった時は、本当に嬉しかったな。そういえば社長って、大学生の時に起業した会社もあったようだし、本当にすごい人なのよね。私は今、二十四歳だから、社長とは五歳しか変わらないんだけど、この差はいったい……」
夕美の大学時代といえば、バイトに推し活に勉強、友だちと遊んで、たまに長野の実家へ帰る、の繰り返しで、起業など微塵も考えたことはない。
「顔良し、スタイル良し、仕事に取り組む姿勢は尊敬ものだし、性格は温厚で優しく、部下からの信頼も厚い。とにかく、社長を推さない理由がないってこと……!」
アクスタとアクキーをこたつの上に並べ、マグカップに淹れたホットココアを口にする。もう冬になろうという、秋の夜長に楽しむ推し活は最高だ。
ココアの優しい味わいを堪能したあと、夕美は胸の辺りまであるストレートヘアをひとつにまとめた。
そして手帳を取り出し、栞が挟まったページをひらく。
これは毎日欠かさず書いている「今日の社長」を記録する推し活手帳だ。
最初のコメントを投稿しよう!