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「千影さん……? どうしたの?」
「あ、ああ、なんでもない。嬉しすぎて……、情けないな」
顔を逸らした千影は、手の甲で目元を拭った。やはり泣いていたのだろう。
そんな彼の姿に心臓が掴まれたように痛くなり、感動が押し寄せた。
夕美とつながれて、泣くほど嬉しかったのだろうか。そんな幸せがあっていいのだろうか……。
「私も嬉しい……」
「まだ痛む?」
「少しだけ。でもいいの。今夜は千影さんの好きにして」
旅行の時も、今日も、夕美ばかりが気持ち良くなっているのだ。この後はただ、彼に感じてほしかった。初心者の夕美は、この行為についていくだけで精一杯なのだから。
わかった、とうなずいた千影が、グッと夕美の奥まで推し進め、そしてゆっくり動かし始めた。
「ち、かげさ……っ、あっ、あ」
「夕美、夕美……!」
夕美を呼び続ける千影の動きが次第に激しくなっていく。先ほどとは違う彼の熱を目の当たりにして、夕美の痛みは薄れ、再び快感が舞い戻ってきた。
大好きな人に抱かれる幸せを、夕美の心と体が貪ろうとしている。
千影の思うままに体を揺すぶられ続け、彼にしがみつきながら必死についていくさなか、それは訪れた。
「ダメだ、もう……、夕美……っ」
夕美の耳元に、千影の苦しそうな声が届く。腰を打ち付けながら、彼が夕美の頬にキスをした。
「愛してるよ、夕美。……本当なんだ、本当に」
すがりつくような彼の声に、夕美の何かが呼び起こされた。
何があっても、どんなことが起きても、彼と一緒にいたい――。
そんな思いを胸に、千影の言葉に応えるために唇をひらいた。
「私も……、千影さん、愛してる――」
高まる興奮が堰を切ったかのように、夕美の言葉が千影の唇に飲み込まれる。そしてそのまま、彼はすべてを皮膜越しの夕美のナカへ放った。
腕枕をされながら、幸せな気持ちでまどろむ。
もう年は明けたのだろうか。ずいぶん時間が経った気がするが、わからない。
「夢のようだよ。幸せだな……」
千影の心臓の音を聞いている夕美の耳に、彼の声が届いた。
「私も、夢みたい。憧れていた千影さんとこんなふうになれて。まだ……本当に、信じられない」
「ねえ、夕美。本当にもう、一緒に住まないか?」
髪を撫でながら問いかける千影の言葉に、夕美は目を丸くする。
指輪のことで「一緒に住めば――」と言われたが、まさか本気だとは思っていなかったのだ。
「この寝室と書斎の他に、ひとつ部屋が空いてるんだよ。夕美はそこに住めばいい。なんの心配もいらない」
「で、でも……」
「僕は今すぐ結婚したいけど、そうなると準備に時間を要する。でも、そんなの待ってられないよ。ずっとこうして一緒にいたいんだ。できればもう、このまま帰したくない……!」
千影は腕枕をしているほうとは逆の腕で、夕美を自分に引き寄せた。彼の肌の匂いと熱が夕美を体ごと包む。
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