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1 あなたを推してます!
「今日も素敵だったなぁ、神原社長……」
お風呂上がり。
暖房の効いた部屋で、届いたばかりのアクリルスタンドとアクリルキーホルダーを見つめながら、奥寺夕美は呟いた。
それらには、アニメでも漫画でも小説でもない三次元の男性――夕美が勤める会社「nano-haカンパニー」の社長――神原千影が施されている。
「社長の写真バージョンも素晴らしいけど、私が描いたこのデフォルメバージョン社長も可愛くて最高~!」
写真バージョンの社長グッズはすでに持っていたので、今回は夕美が愛を込めて描いた社長のイラストをグッズ化したのだ。
神原千影社長は、夕美の「推し」である。
大学時代の夕美は今よりも飽きっぽい性格で、アイドルや二次元のキャラ、舞台の2.5次元や、動画配信者……と推しの対象は次々に移り変わっていき、それを楽しんでいた。
しかし大学を卒業後、「nano-haカンパニー」に就職してからは、神原社長だけを推し続けている。
それももうすぐ二年になろうとしていた。
なぜそこまで彼を推すのかといえば、まず、なんといっても顔。顔がいい。ビジュが最高。
夕美の性癖に刺さりまくりの顔をしている。
シャープな輪郭の小さな顔。キリリとした眉に大きめの目。通った鼻筋に、優しげな笑みを湛えた薄い唇には、いつもドキッとさせられてしまう。
サラリと後ろへ流した黒髪も清潔感があって好みすぎる。
「肌も綺麗なのよね。恐れ多いけど、ちょっと触ってみたいな、なんて」
夕美はアクキーを手のひらに置き、社長の頬を突っついた。
神原社長の身長は177センチ(夕美調べ)だ。
夕美は160センチなので社長とは17センチ差があった。
部屋の壁の177センチの場所にマスキングテープをちょこっと貼って、そこを見るたびに妄想を捗らせている。
彼は足が長く、細身だがスーツのジャケットを脱ぐとしっかりした男らしい肩がシャツ越しにわかるので、夕美はひとり顔を熱くすることもあった。
入社して二年目の夕美と彼のつながりは挨拶くらいだ。
その貴重な挨拶を交わしたあとは、尋常でないときめきで倒れそうになるが、毎回必死に耐えて笑顔を見せた。
神原社長の素晴らしいところは見た目だけではない。
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