重い腰を上げ、部屋を出た。階下のダイニングルームに入ると、千影に気づいた彼女が「こちらにどうぞ~」と座席を促す。千影はおどおどしながらテーブルに着いた。彼女の他にもうひとりアルバイトと思われる女性がいる。
夏休みに入って間もなくのせいか席は埋まっておらず、千影のそばのテーブルも空いている。その状況にホッとしながら、並べられた料理に目を落とした。
山菜の煮付け、こんにゃくの田楽、サラダ、天ぷら、一人用の鍋の横に豪華な肉が盛られている。漬物と白米も添えられていた。山の中とは思えないご馳走だ。
「いただきます」
手を合わせた千影は、箸で山菜をつまみ、口に運んだ。出汁と山菜の香りが口に広がる。
「……美味い」
思わず口に出した時だった。
「ね、美味しいでしょ?」
「っ!?」
すぐそばに立った人に声を掛けられて、むせそうになる。顔を上げると、先ほどの彼女がこちらを見下ろしていた。
「その山菜、オーナーが採ってきたんです。ちょっと苦みがあって美味しいですよね」
「……あ、ええ、美味しいです」
「たくさん食べてくださいね。お味噌汁もどうぞ。あと、こちら失礼します」
彼女は湯気が立った椀を千影の前に置き、一人用の鍋のアルコールランプに火を付けた。
「煮立ってきたらお肉を入れて召し上がってくださいね。では、ごゆっくり」
ニコッと笑ってその場を去った彼女は、別の席にも同じように声をかけている。
千影は味噌汁の椀を口に持っていき、ひとくち飲んだ。冷えた体だけではなく、心までも温めてくれる気がした。
その後は何も考えずに、ひたすら食事を続け、気づけばすべて平らげていたのである。
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