気づかないふりをしていた理由

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「い、嫌だ、死にたくない!!」 泣きながら取り乱すと竜登は彩華の 胸ぐらを掴み立ち上がらせた。 「そんな罵倒を毎日のように 言われ続けてきた天音の気持ちがわかるか?」 泣きそうな表情はまさしく兄の顔だった。 「消えろよ。人間の屑が」 そう言って彩華を突き飛ばす。 尻餅をついた彩華は青白い顔をして 唇を震わせていた。 「ごめん……なさい。ごめん、なさい。」 「いくら謝られても、許すつもりはない。 妹を殺したような奴と付き合うつもりもないから」 竜登の足音が遠ざかって行く。 どうして、こんなことになってしまったのだろうか。 本当に死んでしまいたい。 そう思ってやっと気づく。 天音はこんなにも辛い気持ちを 抱えて生きていたのだと。 馬鹿だな、わたし。 今になって天音の母の言葉を思い出す。 いじめを受けた側もいじめをした側も 苦しむことになるのよ。 本当だった。 涙で顔をグチャグチャにしながら胸元を握りしめる。 「ごめんなさい、天音」 そう呟いても、 誰の耳にも贖罪の言葉は届かなかった。 (終わり)
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