21人が本棚に入れています
本棚に追加
2
『もしもし?もしもーし!』
私が息をのんで固まっている間も電話の相手は呼びかけてくれている。
きっと何かの間違いで違う番号にかかってしまったんだ。間違い電話したことを謝らないと…。
話し始めた私は自分でも驚くくらい声が震えていた。
『あ、あ、あ、あの、わたし、あの、知り合いの電話だと思ってかけてしまって…。こんな夜中にご、ごめんなさい。』
『ああ、そういうことね。』
怒られると思ったのに…少し掠れた穏やかな声で返事をしてくれた。その落ち着きを受けて少し頭が冷えてくる。
『ほんとにごめんなさい。昔から登録していた番号だからそのままかけてしまって…。』
『その人、まだその携帯使ってる?解約してしばらくたつと、その番号が使われる時あるよね。それが俺にまわってきたかな。あはは。』
明るさ受けて固かった心が解れてきたのがわかる。
金曜日午前2時、現実離れした時間のせいもあるかもしれない。
『あ…なるほど…。もうだいぶ前に解約してると思います。それでですね。』
『…そう思うのになんでかけてきたの?』
見ず知らずの相手にそんな事を聞かれるとは思っていなかった。でも不思議と嫌な気がしない。
むしろ話したい、聞いてもらいたい、優しい声色のこの人に抱えきれない喪失感を埋めてもらいたい…そんな欲が出てしまった。
『…亡くなった彼の番号なんです。』
電話の向こうは静かだった。迷惑だろうな…とわかりつつも続けてしまう。
『あれから1年半…忘れようとしました。みんながもう忘れなって言うから。彼の分も強く生きてねって言うから。彼に恥じない生き方をしようと、がむしゃらに勉強して今年就職して…。』
『うんうん。』
相槌が涙腺を切る。
『今日先輩が結婚するって幸せな話を聞いてたら…私もずっと彼と生きて行きたかったって…』
どのくらい泣いていたんだろう。
10秒か20秒か。1分か2分か。
『今夜は月が綺麗だから悲しくもなるよね。』
電話は切られずに繋がっていた。
同じ月を眺めているんだ。
『淋しくなったらまたかけてきなよ。知らない人の方が言いやすいこともあるよね。』
最初のコメントを投稿しよう!