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あれから3週間たってもあの電話のことばかりを考えている。 不思議な人だったな。 夜中にいたずら電話をするなと怒られるようなことだった。そもそもむこうにとっては私の番号は知らないのだから出なくてもよかったのに。 なのに…。 包み込むような異性の温かさに頑なに生きてきた心が揺れる。 翔哉は1年半前、バイト帰りの夜中に交通事故に遭い亡くなった。大学3年の終わり、工学部で優秀な彼はすでに就職先も決まっていたのに。 週に1回しかバイトしてなかったのに。 高校からの同級生で同じ大学に進学することがわかってからお互い意識し付き合うようになった。両方の家族にも公認の仲だった。 最初はみんなで悲しんでいた。 だんだんと…親は早く忘れなさいと言い出した。 翔哉のお母さんは忘れてもらっていいのよ、と言った。それからお線香をあげに行きづらくなった。 友達はいつまでも悲しむ私を呆れるようになったのがわかった。 だから。 忘れることにして気持ちを閉じ込めた。 あの日は私の教育担当の先輩から“10月に結婚するの”と聞いた日だった。その時の先輩が咲き誇る花のように美しくて、翔哉との結婚を夢見た気持ちが胸を突き破って大きな穴があいた。 電話に向かって久しぶりに嗚咽した心は少し穴が埋まった気がした。 また金曜日がやってきた。この前よりは早い時間だ。 また電話していいよって言ってた。 確かに知らない人の方が話しやすいこともある。 得体の知れない知らない人なのに、不思議と恐怖はない。 あの優しい声で包んでもらいたい。 …あと1回。 迷惑かもしれないけどあと1回だけ。 トゥルルル…トゥルルル… 衝動的にかけたものの、呼び出し音に緊張してきた。 トゥルルル…トゥルルル… あと1回鳴っても出なければ切ろう。 トゥル…プチッ そう決めたらまた、繋がった。
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