23人が本棚に入れています
本棚に追加
6
『瑞希さん。』
見知らぬ彼との電話がはじまってから3ヶ月くらい経った頃、仕事終わりに寄った駅近くのカフェで座って本を読んでいると声をかけられた。
見上げた顔に見覚えがある気はするが、誰だかすぐに思いつかない。
『失礼ですが…』と言いかけると『翔哉の弟の達哉です。』とニコリと笑った。
あ、そうか!
『ごめんね、すぐにわからなくて!
…ご無沙汰しちゃってて…。ずっとお線香もあげに行ってないし…。』
『いいんです、そんなの。あの、座っていいですか?』
私の向かいの席に手を置いて言う。断る理由なんてない。
『うん、どうぞ、どうぞ。』
コーヒーを買いに行き、戻ってきて座った彼の顔を感慨深く眺めた。
確か達哉くんは翔哉の4つ下くらい。初めてお家に遊びに行った時に中3の受験生の弟だよと紹介された。そして最後に会ったのが…昨年だから高校3年か。
その間もめきめきと大きくなるなと思っていたけれど、昨年から会わない間にさらに大人っぽくなった。
『今は…大学1年かな?大人っぽくなってわからなかったよ。』
『そう、大学1年です。』
『達哉くんは私のこと、よくわかったね?』
私の顔をじっと見た後『忘れられるわけない』と言った気がした。
ん?と聞き返すと、達哉くんは携帯を取り出しボタンを押した。
どうして携帯を出したの?と思っているとマナーモードにしている私の携帯が震えだした。
画面を見ると翔哉の番号、今は見知らぬあの人の番号が表示されている。
今は達哉くんといるから取れないな、と顔を上げると達哉くんが自分の携帯の画面を私に向けた。
そこには私の名前と番号が表示されていた。
驚いて言葉が出ない。
見知らぬあの人は達哉くんだということ?
目を見開いて言葉が詰まる私に『そうです、電話の相手は俺です』と言った。
『俺の話、聞いてもらえますか。』
聞かないことには理由がわからない。黙って頷くのが精一杯だった。
最初のコメントを投稿しよう!