クソみたいな山

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 黒雲山の麓での出来事から数日後、蔵馬と高坂は黒魔術の脅威を封じるため、山を降りて大阪へ向かうことを決意した。大阪は、封印の鍵を握るとされる「鬼灯の缶詰」が隠されていると伝えられていた場所であり、その缶詰を手に入れなければ、完全なる封印は不可能であった。  列車での長い旅を経て、二人は大阪の街に足を踏み入れた。高坂は都会の喧騒に多少戸惑いを覚えつつも、蔵馬の後に続いた。彼らは街の雑踏の中で、探し求めていた人物、通称「マスオ」という名で知られる医者に会うことになっていた。マスオは元々山間の村で診療所を営んでいたが、何らかの理由で大阪に移り住み、その後「妖怪医者」として名を馳せるようになっていた。  大阪の下町にある小さな診療所に辿り着いた二人は、古びたドアをノックした。中から低く響く声が応える。「入れ」  蔵馬がドアを押し開けると、そこには年老いた医者、マスオが座っていた。彼は深いしわの刻まれた顔に、どこか鋭い眼差しを浮かべていた。「鬼灯の缶詰を探している、と聞いたが、それは命を削る行為だぞ」 「私たちはその危険を承知の上で来ました」と蔵馬が静かに応じた。「黒雲山での封印を完全にするためには、その缶詰が必要です」  マスオはしばし二人を見つめ、重々しく息をついた。「鬼灯の缶詰は、ただの缶詰ではない。中には妖怪の魂が封じられている。その封印を解けば、命を狙われることになるだろう」 「それでもやらなければならない」と高坂が口を挟んだ。「山の力が再び解放されることを防ぐためには、手段を選んでいる暇はありません」  マスオは少しの間考え込んだ後、古い棚から一つの缶詰を取り出した。それは他の缶詰とは異なり、鈍い金属光を放っていた。「これが鬼灯の缶詰だ。だが、これを持ち出す前に、心得ておけ。封印を強化するには、この缶詰に封じられた魂を解き放ち、再び封印しなければならない。それは、命を賭けた試練になる」  その言葉に、蔵馬と高坂は覚悟を新たにした。しかし、その時、診療所のドアが突然勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、大柄で粗野な男で、見たところ地元のチンピラのようだった。男は二人を見下し、嘲笑を浮かべながら言った。「なんだぁ、メンチ切ってんじゃねーよ。俺のシマで勝手にうろつくんじゃねえ」  蔵馬は冷静にその男を見つめ返し、静かに言った。「私たちはただ、必要なものを手に入れるためにここにいるだけです。無用な争いは望んでいません」  男は蔵馬の落ち着いた態度に苛立ちを見せ、さらに挑発的に言い放った。「お前ら、俺を舐めてんのか?いいか、ここは俺の縄張りだ。好き勝手させるわけにはいかねぇんだよ」  その瞬間、マスオが低い声で男に向かって言った。「ここは私の診療所だ。騒ぎを起こすなら、容赦はしないぞ」  男は一瞬怯んだが、すぐにその場を後にした。「覚えてやがれ、二度と俺の前に立つんじゃねえ」  男が去った後、マスオは二人に缶詰を手渡し、言葉を続けた。「これを持っていけ。ただし、封印を解く際には慎重に行動するんだ。妖怪の魂はそう簡単に従わない。もし封印に失敗すれば、お前たちの命は保証できない」  蔵馬と高坂はマスオに礼を述べ、診療所を後にした。彼らの次の目的地は、再び黒雲山へと戻り、鬼灯の缶詰を使って封印を完成させることだった。  しかし、彼らが知る由もなかったのは、封印の儀式が進むにつれ、さらに強大な妖怪が目覚めつつあるということであった。大阪の街は、これから起こる激しい戦いの前触れにすぎなかったのである。
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