クソみたいな山

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 荒野の洋館に現れた妖怪は、かつて津田梅子が封印した強力な存在であり、その力は二人の想像をはるかに超えていた。暗闇の中、蔵馬と高坂は決死の覚悟で戦いに挑むこととなった。  妖怪は猛然と襲いかかってきたが、蔵馬は冷静にその攻撃をかわしつつ、封印のための呪文を唱え始めた。しかし、その呪文は完全に覚えることができていなかったため、妖怪の力を押さえ込むには不十分だった。状況が厳しさを増す中、高坂も妖怪の攻撃を受け、倒れそうになるが、なんとか踏みとどまった。 「蔵馬さん、もう少しです!」高坂は弱々しくも声を張り上げた。「あと少しで封印が完成します!」  蔵馬は頷き、再び集中力を高めた。だが、その時、妖怪が最後の力を振り絞って猛攻を仕掛けてきた。蔵馬はその攻撃をまともに受け、崩れ落ちるように倒れ込んだ。 「蔵馬さん!」高坂は必死に駆け寄るが、その時、蔵馬はかすかな微笑みを浮かべた。 「高坂さん、私にできることはここまでです…あとは、あなたに託します」  蔵馬の言葉に、高坂は涙を浮かべたが、それでも彼の意志を無駄にはできないと覚悟を決めた。高坂はローズヒップの薔薇の前に立ち、蔵馬から受け継いだ呪文を口にした。  呪文が唱えられると、薔薇園から柔らかな光が広がり、洋館を包み込んだ。その光は妖怪をも飲み込み、やがてその姿を消し去っていった。光が収まると、荒野には静寂が戻り、薔薇の花が再び風に揺れていた。  妖怪が消え去ったあと、高坂は疲労困憊しながらも、蔵馬のそばに駆け寄った。しかし、蔵馬は既に息を引き取っていた。 「蔵馬さん…」高坂は涙を堪えながら、彼の手を握りしめた。「あなたのおかげで、封印は完成しました…」  高坂はその場にひざまずき、静かに蔵馬を弔った。そして、彼の遺志を胸に、山へ戻る決意をした。封印を完成させたとはいえ、この旅は決して終わりではなかったのだ。新たな脅威が現れるかもしれない、そう思うと高坂は気を引き締めずにはいられなかった。  数日後、山に戻った高坂は、黒雲山の麓で蔵馬を静かに葬り、その墓前で誓いを立てた。「蔵馬さん、私はこれからも戦い続けます。この山を、そしてこの世界を守るために」  その言葉と共に、山の風が高坂の頬を撫でた。彼は立ち上がり、再び旅を続けることを決意した。山の静寂の中で、高坂の背中には確かに蔵馬の意志が宿っていた。
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