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黒雲山の麓に位置する「抹茶の庵」は、風光明媚な山里に佇む茶屋である。旅人や村人に広く親しまれ、その静謐な佇まいと丁寧に点てられた抹茶は、訪れる者に安息をもたらしていた。しかし、この茶屋の主人である蔵馬には、古くから伝わる黒魔術師というもう一つの顔があった。
蔵馬はかつて、黒雲山の秘境で修行を積み、その魔術の力を得た。だが、彼女はその力を封印し、世俗から離れた山里で静かに暮らすことを選んだのである。茶屋はその隠れ蓑であり、そこで供される抹茶には、微かに魔力が込められていた。その効果はごく控えめであり、口にする者の心身を一時的に癒す程度のものであった。
ある日のこと、異様な風体をした旅人がこの茶屋を訪れた。その男は山荘と名乗り、黒雲山の頂に眠るとされる伝説の魔術を求めて旅を続けていると語った。山荘は、食肉を自在に操る特異な魔術を持ち、その力をさらに高めるため、黒雲山に向かっているのである。
蔵馬は、山荘が持つ危険な力に気づいたが、彼を追い返すことなく、その目的を黙して聞いた。夜が更けるまで二人は語り合い、魔術の秘奥やそれぞれの過去について知識を交換した。蔵馬は、山荘が背負う重い宿命と危険な旅路を察しつつも、彼の決意を感じ取り、茶屋の奥に秘蔵されていた「影の抹茶」を差し出すことにした。この抹茶は、蔵馬が封印してきた黒魔術の力を一時的に解放するものであった。
山荘はその抹茶を受け取り、慎重に味わった後、黒雲山の頂を目指して再び旅立った。しかし、蔵馬の胸中には、山荘が封印された黒魔術に触れ、世界に破滅をもたらすのではないかという不安が渦巻いていた。
数日後、黒雲山は異変に見舞われた。山は不吉な黒い霧に包まれ、野生動物たちは狂乱しながら山を下り、人々は恐怖におののいた。蔵馬は、自らの過ちを悟り、山荘を止めるべく山へ向かうことを決意した。
山の深奥で再び山荘と対峙した蔵馬は、彼がすでに黒魔術の力に取り込まれ、理性を失っていることに気づいた。狂気に駆られた山荘は蔵馬に襲いかかるが、蔵馬は影の抹茶で得た力を駆使し、辛うじて彼を封印した。そして、黒雲山に再び静寂が訪れた。
戦いの後、蔵馬は再び茶屋に戻り、日々の営みを再開した。しかし、その心には、封印した魔術と過去の罪に対する重い負担が残された。蔵馬は、静かに茶屋を営みながら、人々に抹茶を供し続けることで、自らの過ちを償おうと心に決めたのである。
「抹茶の庵」には今も変わらず訪れる者が絶えない。抹茶を味わい、静かに過ごすそのひとときに、彼らはただ心地よい安らぎを感じるのみで、茶屋の主が何を抱え、何を封じているのかを知る者は誰もいなかった。
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